【苦労した設計・・1】



長いことこの仕事をやってくると・・
いろいろと印象に強く残っている建物というのはあると言う話をしましたが・・

中でもやっぱり本当によく覚えているのは設計する時や建てる時に苦労した建物です。



がけ条例という法律があります。
条例ですが全国の市町村が皆々出している条例です。

もう一般の方々にもだいぶ周知されるようになってきていますのでご存じの方も多いでしょうか、内容はここではおいときますがこれができた当初は大変でした。

家が建てられない!
なんて土地がそこいら中に出来た。



そんな崖地でも、建て替えなどどうしても建てなければならない場合・・
もう擁壁を造るしかありません。

が・・
これがお高い!
何がって?
もちろんお値段です。



ちょっと大きめだったりたくさんあったり地盤が弱かったりすると・・
木造の一般的な住宅を建てようとしていたのなら・・

はっきり言って家よりお高くなります。



何しろ木造の軽い家なら基礎はべた基礎などで十分ですが、擁壁にはよっっぽど良好な地盤でない限り絶対に杭や地盤改良が必要です。
それも住宅に使うような改良などではない!
ビルと同じのPC杭や鋼管杭や柱状改良が・・

コンクリートの中に入っている鉄筋も住宅基礎の鉄筋とは比べものにならないほど太い物を使います。
材料代も搬送代も加工代も何倍もかかります。

何しろ擁壁というのは・・
そこの地面の重さや力を全て受け止めるための構造物!
ちょっとやそっとの物では耐えられないのです。



なので・・
1軒の家建てるのに2軒分のお金が必要になっちゃう!



でも予算は当然1軒分しかありません。
なので頭を絞ります。

段土留めで出来ないか?
うまくプランを考えて崖への食い込み住宅で出来ないか?
法面(のりめんと呼びます、安全な傾斜角の更地のことです)との兼ね合わせで出来ないか?
一部を建物で吸収できないか?
むしろ鉄筋コンクリートの家にした方が安くないか?

それによって安全性などを阻害するようなことは絶対にあってはなりませんし、機能やデザインをそこなってもいけません。
ありとあらゆる方法を検討して最善と思われる案を考え出して提案します。



もちろんどんなに考えてもどうにもならないこともあります。
その敷地ではない隣の隣地が崖だったりするともうどうにもなりません

だって・・
ひとの土地には工事できませんから。

そうすると崖から決められた安全距離を離してこの範囲でならこういう建物が建てられますと提案します。




この住宅の場合、まず擁壁の半分を杭が不要に出来る石積み擁壁にして・・
残りの半分を住宅に登るための階段棟であるコンクリート建物として、上屋の木造住宅との混構造として解決しています。




構造として工事としてそして予算内で・・



頭痛がとまらないほど悩み抜いて出来た住宅です。
完成した時は本当にうれしかった。



こういう建物のことは何年たっても忘れません。




Atelier繁建築設計事務所HP
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