ヤクーバとライオン<Ⅰ> 勇気
の続編。
そのとき、人間も獣たちも、つぎつぎに植えて死んでいき、あたり一面、砂漠と化していた。
食べるものは、何もない。
ライオンの王者キヴウェは、一族のために獲物を見つけなければならなかった。
キヴウェは、「あの村」に、牛がいることを知っている。
一族を全滅させないため、群れのリーダーとしての責任を果たすため、「あの村」へ行くしかなかった。
村には、まだわずかに牛が生き残っていた。
そしてそこに、あの男、ヤクーバがいた。
キヴウェは、一族のために、戦わなくてならない。
ヤクーバは、牛たちを守るために、戦わなくてはならない
ふたりは、ついに戦い始めた。
ライオンは、何度も男の首や腹や太ももをひっかいた。
しかし、その都度、爪は引っ込められていた。
男は何度もライオンのわきを槍でつついた。
しかし、決してぐさりと突き刺すことはなかった。
ふたりとも、自分が勝とうとは思っていなかった。
お互いに、相手を助けたいと思っていた。
守ろうとするものたちへの、面目を保つための、見せかけの格闘なのだ。
夜が明け、また夜がきた。
ふたりとも、相手を深く深く尊敬する心で、へたりこんでいた。
ライオンは、よろよろと去った。
村人がやってきて、男に「なにがあったんだ?」と聞き、「なんでもないよ、ともだちが訪ねて来ただけさ」と答えた。
瀕死のライオンは、自分の棲家の近くに、牛の塊があるのを見つけた。
それが男からの贈り物であることは疑いなかった。
しかし、信頼を尊ぶキヴウェには、その贈り物には手を触れず、死にゆく誇りがあった。