動物園の近くに住んでいる小さいな犬は、かねてより、動物園に行ってみたいと思っていました。
夜になると、吹いてくる風に乗って、あざらしの泣き声や、ライオンの吠え声や、さる小屋のおさるのおしゃべりが聞こえてくるからです。
ある日、飼い主のおじさんが、子犬を動物園に連れて行ってくれることになりました。
子犬はどんなに喜んだでしょう。
しかし、なんということ、動物園の入り口には、
「いぬ おことわり!」
と書いてあるではないですが。
意気消沈して、ひきかえす一人と一匹に、門番のおじさんが、
「にんげんの こどもだったらねえ、いえ、にんげんのこどもみたいに みえるだけもいいんですけど」
と助け舟を出してくれます。
そうか、変装すればいいんだ。
そうして子犬は床屋さんで毛をカットしてもらい、さくらんぼうのついた帽子と、水玉のワンピースと、しましまの靴下と、赤い靴と、青いサングラスと、黄色い手袋と、グラジオラスの香水を買ってもらい(なんとも目立つ変装ですね)、後ろ足だけで立つ練習もして、ふたたび、意気揚々と、動物園を目指しました。
門番のおじさんは、すぐに見抜いたようで「おじょうちゃん、ほえないでね。しばふは たちいりきんし」と笑顔で通してくれました。
あざらし、ライオン、パンサー、北極ぐま、茶色のくま、あらいぐま、しまうま、あかぎつね、カンガルー、ワライハイエナを見て、子犬はもうわくわく。
そしておさる小屋に着くと…。
おさるに衣装を全部取られて、子犬だということがすっかりばれてしまいました。
子犬と飼い主のおじさんの、ユニークでほほえましいお話ですが、門番のおじさんの洒脱さなくして、成り立たないお話です。