とある休日、私は起床してから、掃除洗濯をし、一息つくと、生き物部屋に向かった。
私のプライベート空間は纏わりつくような熱気に溢れているが、生き物部屋はエアコンで23度をキープしている。
部屋を開けると、冷たい空気が熱された私の身体を癒してくれた。
「涼しいな!お前ら」と生き物たちにまあまあテンション高めに声を掛けた。
そこで、ヒキガエル達のケージに異変が起こっていることに気が付いた。
二ホンヒキガエルの冬将軍が脂汗をかいて、口をパクパクしていたのだ。
口中にも、何やら焦げ茶色の異物が見え隠れし、体調不良を疑って焦った。
ミヤコヒキガエルのマグマも交雑種の蘇芳も、遠巻きにして心配そうに見ている。
ここで、あることに気が付いた。
汗を滴らせながら懸命に食べていたのは、己の皮であった。
指先の皮を食べているように見える。
これは、ヒキガエルの脱皮であった。
初めて見た。
取り敢えず、邪魔そうな周りの二匹は撤去した。
どうやら私が見たのは、もう脱皮の終盤だったらしい。
ヒョウモントカゲモドキの脱皮は見られなかったが、冬将軍の脱皮は見ることが出来た。
何と真剣な表情で脱皮をするのだろうか。
正にガマの油を滴らせながら、懸命に皮を脱ぐその姿は、一流のアスリートを彷彿とさせる。
一生懸命、口をパクパクさせ、皮を食べている。
脱皮という行為は彼らにとって命がけの大事だろう。
疲労、苦痛、そして希望が入り混じるような、美しい表情である。
私は心中で応援していた。
ここには、命を脅かすような天敵はいないので、ゆっくりと安心しながら脱皮をして欲しい。
取り敢えず、邪魔などはしないだろうが、気を散らせそうなマグマと蘇芳は隔離している。
まるで肩で息をしているスポーツ選手のような様相だ。
頑張れ、冬将軍。
カメラを構えている私のことも気になると思い、私は後ろへ下がった。
私は冬将軍の脱皮が気になりながらも、駅前の安楽亭へ向かった。
世間ではランチの時間である。
帰宅すると、脱皮は終わっていた。
心なしか、皮がフレッシュに見える。
新・冬将軍と言ったところだろうか。
それにしても、何故運よく脱皮を見られたのだろうか。
思い当たることがあるとすれば、この前日にヒキガエルのケージを冷房の効いた生き物部屋から出して、そこそこ暑めの玄関へ一時移したことだろうか。
その暑さが代謝を上げて脱皮を促したのかもしれない。
しかし、脱皮時のあの真剣な表情は、非常に美しく見えた。
脱皮とは、とても尊い行為なのかもしれない。
お疲れ様、冬将軍。