「いらっしゃいませ。
 わたくしは、とりのおにぎり屋の店主です。
 当店のおにぎりを食べますと、お客様の波動が軽くなり最善へと導かれます。
 さあ、本日も開店です。」
会社で仕事を終えた中年のとりが、そそくさと歩いて家まで帰っていました。

中年のとり「はぁー疲れた。今日も1日が長かったな。
      仕事している時間って嫌なことが多くて長く感じるなー。
      早く休みにならないかなぁー」
中年のとりは、グチを言いながら、うつむきかげんで歩いていた。
      「うん?”とりのおにぎり屋さん”?あまり食欲もないし
       今日のごはんは、おにぎりにでもするか。」
そう言って、中年のとりは、お店に入っていった。

店主「いらっしゃいませ。ようこそ”とりのおにぎり屋さん”へ」

中年のとり「メニューはなに?」

店主「北海道産の鮭のハラミおにぎり1品です」

中年のとり「えーっ。1品しかないのかよー。
      よく、そんなのでやってるよなぁー。
      他の店に行くのも面倒だし……。
      しかたないなー。じゃあ3つちょうだい」

店主「かしこまりました。
   …。はいどうぞ。おにぎり3つです」
店主は、3つのおにぎりを袋に入れてそっと手渡した。

中年のとり「ねぇ。お兄さん。としはいくつ?」

店主「わたくしは、○○才です」

中年のとり「うそー!!おれよりも、だいぶ年上じゃん!
      見た目が若いから年下だと思ったよ!」
あまりに若く見えたので、びっくりして床に小銭をおとしてしまった。

店主「お客様。お疲れのようですね」

中年のとり「もう朝から、上司が~あーでもない、こーでもない」

そう言って、中年のとりは、店主に今日、会社であったグチを15分ほど話し込んだ。
     「~って、そういうことなんだよ!」

店主「さようでございますか」

中年のとり「あんたも、仕事している時間って苦痛だろ?」

店主「わたくしは、仕事が楽しいものでございまして、
   いつも気がついたらあっという間に時間がたっております。
   たとえ、10時間でも1時間にしか感じません」

中年のとり「へぇー。いいなぁー。おれは人生が楽しいって思えないなぁ…
      生きていてなんか楽しいことってある?」

店主「わたくしは、日々楽しいことがあって時間が足りません」

中年のとり「たとえば、どんなこと?」


店主「今日も、仕事がおわって家に帰りましたら、好きな深夜ラジオを聴きなが
   らお菓子を食べるスケジュールがありますので、今から楽しみでワクワク
   しております。
   月曜日から日曜日まで楽しい時間がありますので、
   ふける暇がないのです」

中年のとり「そういうことでも人生って楽しめるんだなぁ……」
中年のとりは、店主の話を聞いてしみじみとした気持ちになった。
     「はい。お金…」

店主「ありがとうございました」

中年のとりは、店を出たとたん、急に食欲がわいてきてお腹がグゥーとなった。
袋に入っているおにぎりをのぞきこんだ。
ごくりと、つばをのみこんだ。

中年のとり「さっきまで、気づかなかったけど、このおにぎりすごく
      おいしそうだな。1つ食べよう。
      モグモグ。うまーっ!このおにぎりすっごくうまい!」

中年のとりは3つのおにぎりをあっという間に食べてしまった。

     「いやー。ひさしぶりにおいしいものを食べたなー。
      なんで、おいしいものを食べているときって時間が短く感じるん
      だろうな」

中年のとりは、おにぎりを食べてから急に気持ちが前向きになってきた。

     「おれは、楽しいことってやってくるものだと思っていたけど
      それじゃあ、いつまでたってもやってこないな……。
      今日から、楽しいことに意識を変えてみようっと!」

中年のとりは、楽しいことを考えながらゆっくりと家まで帰っていった。

店主「お客様が前向きな気持ちで帰られて、嬉しく思います。
   嫌だなぁと感じる時間の分だけ長く感じます
   反対に、楽しく感じることは時間が短く感じます。
   これが、”時間の正体”です。
   先ほどのお客様は、長く感じられる時間の分量だけ、
   年数を経験したことになり、早くとしをとっている気持ち
   になっています。
   わたくしは、時間の経過が短く感じますので、としをとるのが遅く
   かんじます。
   楽しい時間のすごしかたを意識すると、どんなときでも若返るものです」