大志があり、猛烈に働き、才能があったヴィクトル・ユゴー(1802年2月26日~1885年5月22日)は、その持って生まれたもののために、人を悔しがらさせ、非常に魅了し、いらいらさせる人であると言われています。
アンドレ・ジッドは、最も才能があった作家は誰ですかと聞かれ、崇拝の表情を浮かべながら、「ヴィクトル・ユゴーさ、こんちくちょう」と言いました。
ヴィクトル・ユゴーのお父さんは根っからのナポレオン主義の軍人であり、お母さんはナントの富裕層の生まれで王党派でありました。政治思想の違いが、次第に夫婦の中に亀裂を生じさせました。離婚したわけではないのですが、あまり夫婦仲は良くなかったようです。
互いに譲れない思想があるという中で、ユゴーは育ちました。
ユゴーは子どもの頃から詩作に夢中で、14歳の頃には「シャトーブリアンになるか、そうでなければ何もなりたくない! Je veux être Chateaubriand, sinon rien !」と、あの有名なことばを言いました。
詩と文学の才能があったおかげで、ユゴーはルイ・フィリップ王の寵愛を受けていたオルレアン侯爵夫人の後ろ盾を得て、次第に政治の世界に入っていきます。
ところが、そのルイ・フィリップが追い出され、イギリスに亡命してしまうため、ユゴー自身もベルギー、そしてゲーンジー島に亡命しました。
その期間は、なんと19年間です。
しかし、この苦難の時期に、ユゴーの才能は開花し、熟されたのです。
代表作Les misérables(レ・ミゼラブル)も亡命中に書いたものです。
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ユゴーはこの作品を書き終え、ラマルティーヌに手紙を書き、こう言っています。
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惨めさを許す社会、地獄を許す宗教、戦争を許す人類、そうしたものは、社会として、宗教として、人類として立派なものとは言えない。わたしはより高貴な社会、人類、宗教を憧れのまなざしで見ている。だからわたしは、嘘を広げるような宗教家どもと闘うし、不正を審判するような裁判官とも闘うし、所有権を失くするのではなくすべての人が所有権を持てるようにしたいんだ。そして、すべての人が主人であり、この世に奴隷などいてはいけないんだ。これが、ぼくの言う本当の意味での社会的・政治的な経済と言えるものだ。
もしも人が望むということを許されるならば、人類の不運や不幸というものを破壊したい。ぼくは奴隷制を糾弾するし、惨めさを追放するし、無知には教育をするし、病には治療をするし、夜には光を灯す。そして、憎しみを憎むんだ。これがぼくだ。だからぼくは、Les misérables(レ・ミゼラブル)を書いた。
・・・
文学者たちの論争などは、ばかげたものだ。詩人が政治的、あるいは社会的なことを論じる方が、はるかに実りのあることなんだ。
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あなたがわたしの作品とわたし自身にざっくばらんな意見を言っていることを望んでます。
あなたの手から出る物ならば、必ず光に決まっていますから。
あなたの古い友人であるヴィクトル・ユゴーより。
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この手紙もそうですが、この内容を読み、多くのフランス人が「わたしたちは誰もがこうしたことを繰り返し繰り返し考えなきゃいけない」と言っているのにまた感動したことがあります。
第二次世界大戦で決定的に不仲になったフランスとドイツの関係を改善するため、フランス研究をドイツに広めたある学者は、「ドイツ人はフランス人の理想的な発言をまさか本心で言っているわけではあるまいと言うのだが、しかしフランス人は本当に信じてそう言っているのだ」と書いていましたが、わたしもその意見に同感です。
大の大人が、本気で人類の理想を語り、できることに取り組もうとしている姿は、気違いじみたものであると同時に、感動を与えてくれます。
そうしてわたしたちは歴史を作り、受け継いだものを次の世代に手渡して、文化を形成していく一助となることできるのかな、と考えています。
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