第5回全日本フラメンコ・コンクール本選終了 | 野村眞里子のブログ <オラ・デル・テ>

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昨日4月14日(日)は、『第5回全日本フラメンコ・コンクール』の本選が高円寺の「座・高円寺2」で開催された。大阪予選、東京予選を勝ち抜かれたカンテ部門7名、バイレ部門15名が出場された。結果は以下の通り。

 

【カンテ部門】

優勝      5番 斎藤克己「タンギージョ」

準優勝     1番 熊谷善博「シギリージャ」

小松原庸子賞  5番 斎藤克己「タンギージョ」

 

【バイレ部門】

優勝      8番 伊藤笑苗「アレグリアス」

準優勝     4番 黒須信江「ソレア・ポル・ブレリア」

小松原庸子賞  6番 南豪「シギリージャ」

 

驚くほどレベルが高く、素晴らしいコンクールだった。そしてバイレもカンテも、私が予想した通りの方が受賞された。

 

また、前代未聞のことが3つあった。バイレ部門の伊藤さんが、審査員5人全員が満点をつけての優勝だったこと。カンテ部門の斎藤さんが伊藤さんのバイレの先生に当たる方なので、師弟でのアベック優勝になったこと。斎藤さんが優勝と小松原庸子賞の2つを獲得されたこと。本当に素晴らしい!

 

以下、受賞者の方について少しだけ書かせていただきます。ただし、今回出演順を記したプログラムもありませんし、出演者の名前はアナウンスされなかったため、間違いにお気づきの方はどうぞすみやかにお知らせください。

 

まず、カンテ部門。13時15分開場で、チケットに開演時間が書いていなかったため「何時開演だろう?」と、少々不安になりながら13時35分に会場へ。すると、13時半からの開演だったようで、審査員の紹介がされている最中だった。

 

真っ暗ななか、前から2番目の右端、上手側の席に座る。すぐに熊谷善博さんの「シギリージャ」が始まった。熊谷さんの歌は、日本フラメンコ協会主催の『新人公演』で、2015年と2019年に「ソレア」、2022年「マラゲーニャス」を聞かせていただいたことがあるが、「シギリージャ」は初めてだ。

 

熊谷さんは、黒い革のジャケットとパンツ姿で、立って「シギリージャ」を歌われた。大げさなゼスチャーもなく、シンプルにせつせつと歌い上げる「シギリージャ」が心にしみた。

 

5番の斎藤克己さんは、私がまだ練習生だった頃——35年以上前!——に、マドリードのコンクールで優勝されていた雲の上の方だった。そんな方が、こうしていまだにコンクールに挑戦されていることに、頭が下がる。しかも、長年フラメンコとともに生きている人生のありったけがつまったパフォーマンスで、会場中を包み込む。黒いシャツ、パンツ、ベスト、帽子に、ブルーのジャケット、ブルーのネクタイ姿で「タンギージョ」を軽やかに歌い上げた。日本人離れしたアイレとグラシア。しかも自然体であると同時におしゃれな歌だった。すっかり堪能させていただいた。

 

次にバイレ部門。

 

4番の黒須信江さんの踊りは、私がまだ『新人公演』の選考委員をしていた2012年に初めて拝見した。その時も今回と同じく椅子から踊り始める「ソレア・ポル・ブレリア」だった。大人になってからフラメンコを始めたという黒須さんは、ご自分の思いをしっかりと込めて作りこんだ「ソレア・ポル・ブレリア」で、準奨励賞を獲得された。その後も、2014年、2016年と『新人公演』に出場され、2016年には奨励賞を獲得された。

 

その後の黒須さんの活躍ぶりはめざましく、日本やスペインのさまざまな舞台で踊られ、後進の指導にもあたっているそうだ。そして昨日久々拝見した黒須さんは、やはり素晴らしかった。

 

歌とともに椅子から踊り始める。全体に黒ベースの衣装で、金色が効果的な差し色として入っている。髪はポニーテールで、ブルーの花に小さい金の櫛。

 

「ソレア・ポル・ブレリア」をていねいに踊り上げていき、2つ目の歌が「ソレア」になったところで、黒須さんの思いが爆発した。歌も踊りもすごい! 凝ったエスコビージャも素敵だった。

 

8番の伊藤笑苗さんのマントン&バタ・デ・コーラの「アレグリアス」。昨年12月の「ウクライナに平和とアートを!」主催のライブ&パーティーのさいにも、マントン&バタ・デ・コーラの「アレグリアス」を踊っていただいたが、会場がタブラオだったためあまり大きく動けず申し訳なかった。でも昨日は劇場でのパフォーマンスだったので、思い切り踊られて、小柄な伊藤さんが大きく見えた。

 

テクニックもさることながら、構成も素晴らしく、まったく飽きさせない。「コンクールながら、凄いものを見てしまった」と感じた。

 

実は、私は伊藤さんとは昔から少し接点があったため、2019年の「第10回CAFフラメンコ・コンクール」で海外留学賞を獲得されたさい、楽屋見舞いをしたことがある。写真はその時のもの。

 

 

 

 

 

また、2020年には「第9回エルスール財団新人賞」を獲得された。その時の私の贈賞理由は下記。

 

「コロナ禍に翻弄され続けた今年、フラメンコの世界でもコンクール、新人公演、発表会、公演、イベント、ライブが次々と中止や延期となった。「そんな中で、本当にちゃんと今年の新人が選べるの?」というご質問もいただいた。もしエルスール財団新人賞フラメンコ部門が、コンクールや新人公演の場での踊りだけを評価して贈る賞なら、「今年は中止」という選択肢もあっただろう。だが、この賞は選考委員自身が数年間のスパンでさまざまな場所に出向き選考するスタイルをとっているため、いささかの影響を受けることもなかった。そればかりか今年の受賞者は、コロナを吹き飛ばすかのようなパワーと、ストレスまみれになった心を癒してくれるような爽やかさを合わせ持ったフラメンコダンサー。まさに、「今年の新人」と呼ぶにふさわしいダンサーなのだ。

そんな今年の受賞者とは伊藤笑苗さん。3年ほど前から、私が密かに注目していたフラメンコダンサーである。

彼女は、4歳の時から斎藤克己フラメンコアカデミーで学ばれ、現在も同舞踊団に所属されている。10歳の時舞踊団の25周年公演でデビューされ、2014年以降ほぼ毎年夏に渡西。多くの師に教えを受け、本場のフラメンコに接してこられた。昨春、マルワ財団主催の「第10回CAFフラメンコ・コンクール」で海外留学賞を受賞され、長期渡西。つまり、今年の彼女の活動は一時帰国中の日本のタブラオでのライブをのぞき、すべてスペインでのものだ。ある時は大学ペーニャで、またある時は大自然の中で踊られ、現地のスペイン人をあっと言わせてきた。今年の2~3月に私がスペイン滞在していた時には、とあるフェスティバル関係者から、彼女の出演とそのサポートを依頼されたほど、現地での評価は高かった。(注:新型コロナウィルスの影響で、彼女の出演話は残念ながら現在ペンディングになっている。)

伊藤さんには、すでにあらゆるものがそなわっているようだ。並外れた舞踊テクニック、フラメンコへの深い愛と身についたアイレ、そして他の追随を許さない発想の新しさ!

彼女のあどけない表情の下には、「言い知れぬ神秘性」が潜んでいる。それに気づいた時、あなたはきっとこのダンサーの虜になるに違いない。」(エルスール財団公式HPより)

 

 

撮影:渡辺亨

 

 

さらに、2022年に無観客で開催された「第11回CAFフラメンコ・コンクール」では優勝。私はオンラインで拝見し、画面に釘付けになった。飛ぶ鳥を落とす勢いというのは伊藤さんのような方を言うのかもしれない。写真は大森有起さん撮影のものをシェアさせていただきました。

 

 

 

 

 

すでに優勝経験のある方のコンクール挑戦は、いろいろプレッシャーもあったに違いない。それを感じさせない踊りでの2冠、本当におめでとうございます!

 

6番の南豪さんの「シギリージャ」。噂には聞いていたが、私が踊りを拝見するのはこれが初めてだ。

 

衣装は黒の上下で、黒シャツ、そしてパニュエロが柄物だった。リズム感のよさが、聞いていて気持ちがいい。速く、キレのよいサパテアードが白い靴を履いた足で次々繰り広げられた。後半は回転で大いに盛り上げた。マチョ・フィナルでは走って上手に引っ込み。今の彼にしか踊れない「シギリージャ」を堪能させていただいた。若い才能が現れたことを嬉しく思う。

 

南さんは、授賞式では受賞が信じられないという表情で舞台に上がり、少しウルっとされていたようだったが、写真撮影の後には廊下でご家族らしき方たちとハグしながら号泣されていた。その様子を見て、私も思わずもらい泣きしてしまった。

 

他の出場者の方々についても、素晴らしい歌や踊りに感動したのですが、プログラムがないためお名前と曲目を一致させるのが難しい状況です。ご理解いただければ幸いです。

 

主催者の小松原庸子先生、審査員の先生方、出場者のみなさま、ミュージシャンのみなさま、スタッフのみなさま、本当にお疲れさまでした! 素晴らしいコンクールを見せていただき、本当にありがとうございました。