詩作としてのユートピア(4)
ホメラレモセズ、クニモサレズ、イツモシヅカニワラッテヰル「地に足のついた生活」を批判するのは私の本意ではない。むしろ、それは私の永遠の憧れでもある。しかし、それにもかかわらず、私は敢えて「地に足のついた生活」を批判せねばならない。何故か。パラダイスのその先へと一歩踏み出すためだ。本当を言うと、その一歩が正しいのかどうか、私自身にもよくわからない。大変な錯誤だという不安は常に付き纏っている。そもそもパラダイスさえ未だ実現していないのに、その先を目指すのは僭越なことだろう。それ以前に為すべきことはたくさんある。貧困、戦争、環境破壊。「世界のロマン化」などと言っている場合ではない。確かにそうだ。確かにそうだけれども、その先への一歩を思耕せざるを得ない。その理由に関する卑近な例を一つ。数年前の朝ドラ「まんぷく」(インスタントラーメンを生み出した安藤百福氏をモデルにしたドラマ)が再放送中だが、その主人公・立花萬平がGHQに指示された国税庁に理不尽な脱税容疑で不当逮捕されるという場面があった。明らかな冤罪であり、熱血青年弁護士の尽力でその不当性が公にされ、萬平さんは国を相手に訴訟を起こす決意をする。驚いた国税庁は「とても勝ち目はない」と判断し、訴訟を取り下げれば萬平さんを即刻釈放するという取引を持ち掛ける。「やっと萬平さんが釈放される!」と周囲は喜ぶが、萬平さん自身は「訴訟を取り下げるのは嫌だ。何年かかっても最後まで徹底的に戦う」と述べる。すぐに釈放されるのは喜ばしいことながら、訴訟の取り下げは自らの罪を認め、多額の罰金の支払いにも服することを意味するからだ。私は心の中で快哉を叫んだ。萬平さんが冤罪で理不尽な辛酸を嘗めてきた場面を実にモヤモヤした思いで観続けてきただけに、「さあ、これから萬平さんの反撃だ!」と熱くなったからだ。ところが、結局、萬平さんは国相手の訴訟を取り下げることにした。愛妻の福ちゃんに「萬平さんの一日も早い釈放を待ち望んでいる家族のことを第一に考えて!」と説得されたからだ。私は心底ガッカリした。そして、やり場のない激しい憤りに戸惑った。家庭の幸福は諸悪の本。私はおかしいのだろうか。ここは福ちゃんと萬平さんの夫婦愛、延いては「正義を貫く」という大義よりも大きな家族愛に感動する場面なのだろうか。たかがドラマ、されどドラマ。私はただ、途方に暮れるばかりだ。