補足:水平の一歩 | 新・ユートピア数歩手前からの便り

補足:水平の一歩

「よく『進歩』『進歩』と言うがな。『進歩』っていうものは、着実な改良なんだ。一ぺんになにもかにも、ぶっこわして、それですっかり改革されるという、そういう短気な景気のいい話は、学者か評論家にまかせておきゃいいだ。おれら民衆に必要なのは、もっと身近な改良だ。」(武田泰淳「森と湖のまつり」)

その通りだと私も思う。人生のドラマの唯一の舞台が水平の次元であるのなら、垂直の一歩を踏み出す前に水平の一歩を踏み出すべきだ。そう考える人も少なくないだろう。実際、戦争、貧困、環境破壊など、世の中には解決すべき水平的問題が山積しており、そうした身近な諸問題の「改良」に立ち向かう水平の一歩が求められている。私は決して水平の一歩を否定するものではない。しかし、戦争などの悲惨な現実をもたらすものも水平の一歩なのだ。水平の一歩を世俗化、垂直の一歩を聖化、と単純に考えてもいいが、二つの運動は相即している。垂直の一歩を意識しない水平の一歩は世界を堕落させる。垂直の一歩が水平の一歩を正しい道に導く、そう言ってもいいだろう。人生の唯一の舞台はあくまでも水平の次元だが、そこには常に垂直の力が恰も恩寵のように働く。アラブとユダヤの和解に向かう水平の一歩も垂直の一歩なくして成就しない