偽善者の夢 | 新・ユートピア数歩手前からの便り

偽善者の夢

私には夢がある。困っている人を助けて、多くの人から感謝されることだ。だから、大きな災害が起きるとワクワクする。ボランティアになって、多くの困った人たちを助けることができるからだ。実に不謹慎なことだと分かっているが、そこには確かな生の充実がある。平穏無事な日常生活では、何の取柄もない私など誰も助けることなんかできないが、災害の非常時では全てが一変する。私のような下らない者でも人の役に立つことができる。本当にささいなことをしただけで人に感謝される。皆、優しい人ばかりだ。災害ユートピア、と言うのだろうか。人と人とが互いに助け合って生きる優しさに満ちた世界。できることなら、そんな世界がずっと続けばいい。しかし、幸か不幸か、災害はやがて復興に向かう。そして、平穏無事な日常が戻って来る。私は自らの夢を実現するチャンスを失い、再び退屈な毎日にウンザリする。こんなことを何度繰り返せばいいのか。災害を待ち望むなんて流石にマズイと思うけれど、平穏無事な日常において私の夢は実現するだろうか。私にそれなりの能力があれば、例えば医者の能力があれば、私は病や怪我に苦しむ多くの人たちを助けることができるだろう。私の夢は叶う。しかし、私にはそんな能力はない。他人様を助けられる能力などはない。むしろ、私は誰かに助けられる側の情けない存在だ。災害でも起こらないと、私が誰かを助けられる存在になることはあり得ない。――しかし、本当にそうか。ユートピアは災害にしか実現しないのか。この問いを以て偽善者の夢は人間の理想に接続する。