キチガイと大衆社会(7) | 新・ユートピア数歩手前からの便り

キチガイと大衆社会(7)

婆さん社長は明らかに自分の会社を「御恩-奉公」の封建制的構図でしか理解しておりません。すなわち、我々従業員は生活を安堵して下さる御主人である社長様のために尽くすべき奉公人なのです。実際、社長は時々我々のことを奉公人と呼ぶことがありますし、経理を担当している私などは番頭さんと称されることもあります。周知のように、これに対して労働基準法には「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」と明確に謳ってありますが、「対等の立場」が本当の意味で実現している会社など皆無だと思われます。それは有給休暇の平均取得率が50%程度に止まっていることからも明らかでしょう。尤も、本日のニュースによれば、オリックスという会社は社員に休暇の取得を促すために5日以上続けて有給休暇を取ると最大で5万円の奨励金を支給する制度を4月から導入するそうです。それによって昨年度は65%だった有給休暇の取得率を来年度は80%以上に引き上げたいとのことですが、こうした流れが一般化していけば労使の「対等の立場」はやがて実現に近づいていくのかもしれません。しかし乍ら、これは何か奇妙な感じがしないでしょうか。何故、奨励金まで出して社員の休暇取得を促さねばならぬ必要があるのか。その御蔭でオリックスという会社の企業イメージは格段に良くなるのは当然ですが、そもそも労働者の権利である有給休暇をどうして多くの社員は積極的に取ろうとしないのか。そこには「取りたくても取れない現実」があるのでしょうが、そうした「大衆の現実」の改善が会社主導で(社員自身の主体的意志によってではなく)行われるとすれば、それは依然として「御恩-奉公」という構図から一歩も踏み出せていないことを意味するのではないでしょうか。勿論、有給休暇を誰に気兼ねすることもなく自由に100%消化できる「優良企業」で働けることは実に幸福なことでしょう。しかし、それは優良な御主人様の下で働ける幸福と一体何が違うのか。キチガイの混乱はまだまだ続きます。