村の現状 | 新・ユートピア数歩手前からの便り

村の現状

Sさんの「入村希望」をめぐる今一つの問題は村の経済状況です。或る人の計算によれば、村人が一年間生活するのにかかる費用は約130万円です。従って、単純に考えれば、Sさんの入村によって村の支出は130万円増えることになります。しかし、今の村の(生産)体制では、Sさんの労働力が加わって収入が130万円増えることはないでしょう。勿論、村は慢性的な人手不足なので、草刈や田圃の草取りなど、色々とやるべき仕事はあると思います。しかし、新たな収入につながる仕事は殆どありません。こうした現状において、Sさんの入村が歓迎されるとは私には到底考えられないのです。


尤も、こんなことを言っていては、新しい人を村に迎えることなど永久にできないでしょう。だからこそ我々は、「新生会」という組織を設立して、それによって新しい人を受け容れられる経済的な体制を準備していくことを提案したのです。結局それが認められなかった今となっては愚痴にしか過ぎませんが、「新しき体制の確立なくして、新しき人の受容はあり得ない」ということは厳然たる事実だと思います。ただし、「新しき体制の確立」と「新しき人の受容」は相即しており、何れを優先させるかということには議論の余地があるでしょう。すなわち、「新しき人の受容」を優先させて、その新しき力によって「新しき体制の確立」を目指していくということも可能だと思います。私もそうした希望を全く棄てたわけではありませんが、村の現状ではなかなか難しいと言わざるを得ません。また、新しく入村する人が果して「新しき体制の確立」に真に意欲的な「新しき人」足り得るかどうか、ということも問題でしょう。


何れにせよ、Sさんの入村は厳しいと思います。私個人の意見としても、今の体制のままでSさんを村に迎えることには困難を感じざるを得ません。尤も、Sさんが「新しき体制の確立」に自覚的な「新しき人」であるなら話は別です。しかし、その場合には、他の村人がSさんの入村を認めないでしょう。村の閉塞状況は実に根が深く、私の絶望は深まるばかりです。