(4)






商店街にたどり着いた。


僕らの電器屋だけではない。


あちこちに破壊が見られる。


泣き叫ぶ声がする。


道路はひび割れ、いくつもの場所で陥没が見られる。




いつか、ヤマト達に


「闇の化身の何が、そんなに恐ろしいか分からない」と言った言葉を


僕は撤回するしかなかった。




こんな、こんなことが僕たちの街で起こるなんて。


小さい頃によくお遣いに行ったスーパーが。


よく遊んだ同級生が住んでいるはずの家が。


見るも無残に変わり果てた姿をさらしていた。




しかし、おかしい。


泣いている子どもがいる。


頭から血を流している人も見える。


ただ、その破壊を為した主であるはずの、


闇の化身となった人々の姿がない。




はなみは、速度を落とすことなく商店街の裏路地へと入っていく。


この先にあるのは…神社だ。


小さい頃、境内でよく遊んだ記憶がある。


年に一度、今でもお祭りがある。


名前は「あけぼの神社」。




神社が見えてくる。


様子がおかしいのが、遠目からでも分かった。


境内で、黒いものがうごめいている。


この人混みは。


闇の化身だ。


集まった闇の化身が、さらにこの神社の境内に集結しているのだ。




その人混みは…さながら、満員電車。初詣。


すさまじい人口密度だ。


なぜ、彼らはこんなところに集まっているのか?




神社を目の前に、はなみが跳び上がった。


それは高く、どこまでも高く昇る跳躍だった。


そしてゆっくりと降下する。


地面に降り立つ。




その場所は……群衆のちょうど中央だった。




「え、ちょ、嘘だろ?!」


僕は叫んだ。




僕らは着地と同時に数え切れない数の闇の化身に周囲を囲まれてしまった。




「う、うーん」


そしてはなみは、暴走をひとしきり終えたからなのか…


ぐったりと体を倒すと、意識を失った。




こんな場所に人を連れてきて、どうするつもりなんだ。


やはり結局は、闇の化身。


はなみはこの人たちの味方だったということなのか。




「に、兄ちゃあーーーん。ど、どうしたらいいの?」


マサキが叫ぶ。




360度周りを全て囲まれている。


逃げるのも戦うにも圧倒的に不利だ。


どうしたらいい?




境内にまぶしく光が差したのはその時だった。


僕らを囲んだ人たちの動きが止まる。




「ふっふっふ。


 助っ人、登場じゃ」




現れたのは、ヤマトだった。





(つづく)

(3)






ここがどこだか、僕にはもう分からなかった。


再び“暴走”したはなみは、


僕とマサキを両脇につかんだまま驚異的なスピードで走りだした。




風。


はなみと共に、僕たちまでもその一つになっていた。




気がつくと、僕らはどこかの山の中…


木々に囲まれた森の中にいた。


ここなら…周りに民家が少ない。


たしかに、ここなら周りの人たちを闇の化身に変化させることもない。


何かの時間稼ぎが必要なら…


この場所はちょうどいいかもしれない。




と、思ったのだが…




はなみは立ち止まらない。


さらにスピードを上げ走り続ける。




「ど、どこまで行くんだ……?」


はなみは返事をしなかった。




走り続けるはなみ。


よく見ると、来た方向に戻りつつある。




「何をしているの? どこへ向かっているの…?」


マサキが不安そうに訴えた。


はなみは何を考えているのか? 


いや、考えがあるのか?




その不安定な気持ちと反対に、はなみが僕らをつかんで離さない、


その力の確かさだけが妙に強く感じられた。




眼下の丘に見覚えがあった。


ここを越えたら、またひなた野市に戻ってしまう。


その、丘を越えた瞬間だった。




「な、なんだ、これは……」




見たこともないような景色が広がっていた。


雲が…巨大な黒い雲が、ひなた野市に向かって根を下ろしているように見えた。


見方を変えれば、「ひなた野市から巨大な柱が空に向かって伸びている」ようにも見えた。


核爆弾を使った時にできる、「きのこ雲」のようでもあった。




それは僕に、漠然と「世界の終わり」を思わせる光景だった。




そして、近づきながら…僕は理解した。




これは…電気スタンドだ。


ひなた野市を中心に、黒雲が、電気スタンド状の形に広がっているんだ。


それは、カサをどんどんと広げていく…


自らの領域を無限に広げていく、


何かの生き物のように見えた。




はなみは、その中心…電気スタンドのポールの部分に向かって真っ直ぐに走っていた。


ひなた野市、あけぼの商店街。


さっきまで僕らがいた場所がその根元だった。


父は、ちなつは。無事だろうか。


闇の化身に変化してしまった人たちを救う方法は、本当にないのか。


そう言えば…母さんの姿を見ていない。




「もう一度…戻っていくのか?」




やはりはなみは言葉を発しない。


時間稼ぎ。この移動自体が、時間稼ぎだったのか。


はなみが“本当に目覚める”とはどういうことなのか。


僕には分からなかった。


ただ、僕らは確かにそこへ向かっていた。





(つづく)

(2)






「真実を見失っている?」


僕ははなみに聞き返した。




「いちいち面倒な説明をしている暇はないかもしれない。


 ただ、キミたちは思い違いをしてる。


 予言書の内容を覚えている?」




「僕と…はなみちゃんの間で、最後の戦いが起こる?」




「それは予言を読んだキミたちの勝手な解釈だよ。


 “天野ハルキが、闇のひとり子と出会いしとき…


 全ての戦いは終わるであろう”」




「あ…」




言われてみれば、そうだ。


二人が戦うと明確に書かれていたわけではない。




「まあとにかく…今は、ちょっと時間を稼ぐ必要があるみたいね」


はなみは空を見上げた。


辺りは黒い雲に覆われていた。


今にも降りだしそうな気配だ。




「時間を…稼ぐ?」




「そう。


 まだ、時間が必要。


 その時は近づいているけれど…まだ、


 この子が本当に目覚めるには…時間がかかる。


 それまで、闇の化身の攻撃から身を守らないといけない」




そう言うと、はなみは僕の方を見た。




「だけど、もしこの子の力が目覚めたら…あとはキミ次第だよ。


 キミの心一つで、人類の未来が決まる」




人類…


ずっと大げさだと思っていた言葉に、


いつの間にかリアリティを感じるようになっていた。




「簡単なこと。あの時と同じ。


 この子を守りたい。それだけでいい」




はなみは続けた。


「もう一度、灯かりをともすんだ。


 闇の化身を倒すためじゃなく、この子のために。


 あとは…進むべき道が、自ずと開かれる。


 最後は…その大きな流れに、身を委ねること」




僕は言われるままに、頭の電気スタンドのスイッチを入れなおした。


さっきまでより更に強く、光が輝く。




「そう。それでいい。


 その光こそ、私の…


 私の、捜し求めていたもの。


 私が出会いたかった光。




 私の力を…解き放つための光」




はなみが言った。





(つづく)