(7)






「さっきから…体がおかしい。


 吐き気がひどい。


 貴様らが、何かしたのか。


 この…悪魔どもめが…」




ウタマロは息をするのも苦しそうだった。




「そうではない。


 時が来たのじゃ。


 人間の中の…闇が目覚めつつある。


 お主の中の闇もまた、それに共鳴しておるのじゃ。


 このままではお主もまた…巨大な闇の雲の一部となる。


 それがさだめじゃ」




ヤマトが言った。




「な…何を…寝ぼけたことを…」




ウタマロがヤマトを地面に叩きつけた。


倒れたヤマトに、更に蹴りをいれる。


鈍い音が、二度、三度。




「この悪魔どもめ。


 僕たちは…こんなことには屈しない。


 この力…僕の中に宿るこの力が…


 貴様らを一掃するのだ。


 我々こそが…正義。


 我々こそが…世界を正しく治める真の能力者だ!」




その顔には、苦痛と悲壮感が漂っていた。


今朝、図書館で会ったのがはるか昔のように感じられた。




「僕たちが!


 僕たちが…!


 我らは竜の一族、選ばれし民。


 貴様ら…けったいな…電気スタンドの悪魔を


 この世界から消すために遣わされた存在…」




一言話すのにも苦しそうだ。




ヤマトが顔を上げた。


「“竜の一族”などこの世界には存在しない。


 お主が自らを正当化するために作り上げた幻想じゃ。


 幻想は幻想でしかない。


 目を覚ますのじゃ」




「違う… 違う。


 違う、違う。


 父さんは…母さんは…姉さんは…


 お前たちに殺された。


 お前たちに殺された。


 父さんを返せ。母さんを返せ。


 優しかった…姉さんを返せ。


 お前たちが正しいはずがない!」




ウタマロはさらに苦痛に顔を歪めながら言葉を続けた。




「ぼくが仇を取るんだ。


 みんなの仇を取るんだ。


 それだけが…


 ぼくがいきているもくてきなんだ!」





(つづく)

(6)






「なぜ…ここにこの者たちが集まっているか分かるか。


 奴らは作っておるのじゃ。


 “闇の電気スタンド”を。


 それは言わば“アマテラスの矛”の反対の力。


 光を砕き、闇の力をこの世界にあふれさせるためのもの。


 その完成を待つわけにはゆかぬ。


 今…いま、この場で…全てを終わらせるのじゃ」




ヤマトは言った。




「あるいは、そこで倒れているはなみ殿を殺すこと。


 闇のひとり子が死ねば、全ての闇の力が消えるかもしれない。


 ここにいる全員の命と、はなみ殿の命。
 
 お主にはどちらかを選べるのか?


 できぬであろう。


 ならばワシがやるしかない」




ヤマトの頭が光を増す。




「だから…待って。


 その解釈自体が、違うかも知れない。


 何か、方法があるかもしれないんです。


 きっと、何か方法が…」




僕の言葉はヤマトには響かなかった。


光はどんどんと強さを増す。




「や…やめろ。


 やめてくれ!」




父さんは。ちなつは。母さんは。


もしかしたら、この中にいるかも知れない。




こんな時に…家族のことだけを思うのは間違っているのかもしれない。


もっとたくさんの…世界中の人の命のためには、身内の犠牲などいとわない。


それが今、選ぶべきことなのかもしれない。


しかし僕はそんな風には考えられなかった。




「やめてくれーーーーーっ!」




叫んだ。




同時に…光が、消えた。




辺りは再び暗闇に包まれた。


ヤマトが、光ることをやめた。


でも…なぜ?




ヤマトを見た。




「あ………!」




臙脂色のコートを着た男が、ヤマトの首をつかんで吊るし上げている。


ヤマトは息ができずもがいていた。


ヤマトの光は彼には及ばないのか。


そう…




「ウタマロ」。




ついに、姿を現した。


「アマテラスの使者」を「悪魔」と呼び、


自らを「竜の一族」と名乗った男。




やはり、彼とは戦うしかないのか。




「く…くそッ


 何が、起こっているんだ。


 この体から出る煙のようなものはなんだ。


 俺は…俺たちは…選ばれし人間ではないのか。


 この雲はなんだ!!」




ウタマロが吐き出すように言った。




ウタマロ自身が、この現象を理解できていない。


それは僕にとって意外な事実だった。





(つづく)

(5)






「や、ヤマトさん…助けに来てくれたんですね」




「ふっふっふ。


 恐らく今頃、じいちゃんの予言にこんな言葉が現れているはずじゃ。


 山本ヤマトが、闇の化身を一掃する、とな」




ヤマトの登場で、闇の化身の群れは動きを封じられた。




「そ、そうだ。ヤマトさん。


 このまま…このまま、全員の動きを止めておいて下さい。


 戦うことが、最後の終わりではないかもしれない。


 あの予言には、違う解釈があるのかもしれない。


 はなみちゃんが、そう言ったんです。


 それが何かはまだ分からない。


 ただ、こうしてみんなの動きを止めておいてもらえれば…


 無駄な命が失われなくて済むかもしれない」




僕は言った。




「無理じゃ」


ヤマトは冷たく言い放った。




「そんな…それでも闇の化身は殺す。


 やっぱりあなたはそう言うんですか?」


僕はヤマトを睨んだ。




「そうではない。


 その程度のことであれば、まだ良かったがな。


 よく見るのじゃ。闇の化身となった者たちのからだを。


 そして、あの黒い雲を」




そう言われ、僕は改めて人々を見た。


商店街の見覚えのある人たちが何人もいる。


胸が苦しくなった。




そして…


人々の体から、何か霧状のものがゆっくりと立ち上っている。


それが、上空に行くにつれ雲のようになっていく。


なんだ、これは?


これが遠くから見えた黒い電気スタンド。


巨大な黒い雲の正体だったのか。



 

「闇が人間の悪しき心を生んだのか。


 人間の悪しき心が闇を生んだのか。


 闇がどうやって生まれたかは、誰も知らない」


ヤマトが言った。




「闇は、常に人間と共にあった。


 人間の心の中に巣食い、人間の長い歴史の中…


 脈々と、その存在を現代まで連ねてきたのじゃ。


 今、その闇が外に現われた者たちから順に、闇の化身となっている。


 そして、人々の中の闇は…今、この最後の戦いの時に…


 あの雲の形へと姿を変えつつある。
 
 もし、アマテラスがこの戦いに勝利しなければ…


 あの雲が全世界を覆う。


 人々の心の中に、闇だけが存在する世界。


 それを許してはならない。


 今、全ての闇の化身を葬らねば、未来はないのじゃ」





(つづく)