(2)






間髪を入れず、光が二度三度と放たれた。


神木に落ちた雷は、炎となって神社の裏手の森を燃やし始めた。




「これは…ウタマロだ。


 狙っておる。


 この神社を…ワシらを、狙って雷を放っている」


ヤマトが言った。




なんだって。


雲を・・・ウタマロが動かし、操っている?


雲と同化したウタマロが…


その意志によって雲自体を動かし始めていると言うのか。




「人々から集めた闇のエネルギーに…


 ウタマロの持つ怨みのエネルギーが、


 復讐のエネルギーが加わったのじゃ。


 こんな…こんなことは予言には書かれていない」




そう言っている間にも、一発。二発。


稲妻がこっちへ向かって落ちてくる。


社務所が燃えている。


あたりが炎に包まれる。


お社そのものにも火が移る。


落ちてくる雨水は、この炎を消すには足りないようだった。




「どうしたらいい…」


僕はつぶやいた。


しかし…空の稲妻にどうやって立ち向かえばいいと言うのだ。


僕は足元を見た。


はなみはさっきから気を失ったままだ。


この炎の中で…いったいどうしたらいい?




またも閃光が放たれた。


それは今度こそ、間違いなく…


僕自身の立つ、まさにこの場所に向かっていた。




「う…うわあああ」




僕は覚悟した。


雷に打たれる。




ところが。稲妻は突然消えた。


何か、もっと大きな力が横からぶつかり、


稲妻のエネルギーを相殺したのだ。






「まだ、死ぬのは早いぜ。天野っち」




そ、その声は…


「ひかるさん」




ひかるが立っていた。


雨の中、髪をぬらしたまま。




「き、来てくれたんですね」


僕は燃え盛る炎の中、ひかるの方へ走り寄った。




「残念だけど…天野っち達を助けるために来たんじゃないんだ」


ひかるはそう言うと、空を見上げた。




「アタシはアタシで…自分の運命に、決着をつけに来た」





(つづく)

最終(第22)章 






(1)






ひなた野市を中心に広がる巨大な黒い雲は、


依然としてその勢力を拡大しつつあった。




ウタマロの体が消えたあとを、僕は呆然として見ていた。




「そうだったのか…


 ウタマロがなぜ、闇の化身として目覚めたのか。


 なぜ、我らアマテラスの使いをあそこまで憎み、


 攻撃をしていたのか…


 全てはあの時から始まっていたのじゃ。


 一家3人の存在を消した時から…。




 残された少年は、記憶を奪われた。


 しかし彼の中にある家族を失った悲しみは消えなかった。


 記憶がなくなった後も残り続けた。


 その言葉にならない悲しみが、苦しみが…


 彼の中の闇を大きくした。


 そして彼は闇の化身として覚醒した。


 闇の化身を倒すことが…


 闇の化身を生むことにつながっていたのじゃ」




ヤマトが語った。




「なにを…他人事のように。


 全て、あなた達がやったことじゃないですか。


 彼から家族を奪い…結果として、人間らしい心さえも奪った。


 全て、組合のしたことなんじゃあないか!」




僕は思わず強い口調になっていた。




「彼は…彼はどうなったんだ。


 雲に…吸収されてしまったのか」




辺りを見回す。


そして気がついた。


何かがおかしい。


ヤマトの電気スタンドの光は今は灯っていないのに…


周囲を取り巻いていたはずの闇の化身となった人たちが、みな動きを止めていた。




いや、そうではない。


今のウタマロと同じように、皆がもがき苦しみ始めているのだ。




「急がねばなるまい。


 いよいよ、“闇の電気スタンド”が完成しつつある。


 みな、ウタマロと同じように吸収されるぞ。


 はやく…彼らを葬らねば!」




空からしずくが落ちてきて、僕たちを濡らした。


あ、雨…。


闇の雲から、雨が降ってきた。


同時に、雷鳴がとどろき始める。


あっと言う間に土砂降りになった。


稲妻が空を切り裂く。


そして空から、まばゆい光が僕たちへ向かって放たれた。


落雷だ。


神社の裏に、樹齢数百年と言われる年老いた巨木がある。




雷はその木を直撃した。





(つづく)

(8)






彼の中に何が起きているのか…


急に口調が変わった。




「ぼくがかたきをとるんだ。


 ぼくがかたきをとるんだ。


 ぼくがみんなのかたきをとるんだ」




いったい…何を言っているのだろう?




「待て…ま、まさか。


 そうか、ウタマロ…


 思い出した」




ヤマトが言った。




「もう7~8年は前になる…


 一家4人のうち、3人までもが闇の化身として目覚めた家族がいた。


 非常にまれなケースじゃが…


 時としてそのような運命のいたずらが起きる。




 組合は…その3人の存在をこの世界から消した。


 そして…残った1人からは家族に関する記憶を全て奪った。


 その時に残された…男の子」




「忘れるものか…忘れるものか…」


ウタマロはまだ、言葉を続けている。




「そうじゃ。


 あの時、ただ1人の男の子がこの世界に残された。


 我々は…少年の新たな家族となる人を探し、


 そこで生きていけるよう手はずを整えたのじゃ。




 あの子には、そう…生まれつき、病気があった。


 体温調節の機能に障害があって、常に暖かい服装をしていた。


 真夏でもセーターを着ていた。


 マフラーをしていた。




 あの時の子…名は、たしか宇多田…


 宇多田キミマロ。


 彼が…ウタマロ。


 ウタマロだったのか。


 彼までもが、闇の化身として目覚めていたのか」




「忘れるものか…


 この悲しみ…この苦しみ…この怨み。


 たとえ貴様らが忘れようとも…


 このぼくは…わすれるものか!!!!」




ウタマロがそう叫んだ時だった。


ウタマロの体が、一瞬霞んで見えた。


まるで全身が霧に包まれたように、


いや、体全体が霧状の物体に変化を遂げたかのように見えた。




そして同時に、水風船が破裂するように、


その霧が四方八方、あたりに飛び散った。




今までウタマロだったその霧は…


巨大な闇の雲の中へと吸い込まれていった。





(つづく)