(5)






なぜ、僕はこんなことを言っているんだろう。


自分でも不思議だった。




「ウタマロが闇の化身になったのが、


 家族を失ったせいだとしたなら…


 あなたの死だって、別の悲しみを生むだけだと思う。




 あなたは確かに、人を殺したのかもしれない。


 それが正しいことだったのか、僕には分からない。


 闇の化身の存在を許してしまったら…


 この世界は滅びてしまう。


 それも確かなのかもしれない。




 でも…


 ひかるさんを見ていたら分かる。


 一度でも本当に心を殺してしまったら…


 今のあなたのようにはなれない。




 いつも、誰かの命を奪うとき…あなたの心は泣いていた。


 分かった風なことを言っていると思われるかもしれないけれど……


 どんなに心を凍らせたとしても、いつも涙を流していた。


 僕はそう思う。


 だから…


 だから、これ以上、今生きている命が奪われる必要はないって…


 僕はそう思う」




僕の言葉が、的を射ているのか。


論理的に、倫理的に筋が通っているのか。


何かの確信があったわけではない。


ひかるとウタマロが逆の立場なら、


また違うことを言っていたのかもしれない。




ただ、ただ…叫んでいた。


自分の心の中にあるものを、できる限り言葉に変えて…叫んでいた。




「ハルキ…」


ひかるがつぶやいた。


雨はやまない。雷鳴は上空で轟いていた。


しかし、稲妻の放射は止まっていた。




「そう。きっとその通り…


 彼の心を本当に救うのは…


 仇を討つことではできない。


 彼自身が自分の心に決着を着けなければ…怨みは解放されない」




僕の後ろで声がした。


はなみだった。




「は…はなみちゃん」




「行こう、天野くん。


 時間が来た。


 この決着を着けるのは、あの予言の通り。


 私と天野くんが出会うことで、この戦いは終わるの」




時間稼ぎと言ってから今までもう随分時間が経っている。


しかし、とにかく…はなみの中で、時は満ちたらしかった。




「私の中にいた…あの子は、もう消えた。


 私が、“闇のひとり子”。


 電気スタンドの光を受けるたびに、私は力を増す。




 だけどそれは…闇の力のためじゃない。


 光の中で、全ての存在が生きていくために…


 私は闇を代表する者として…


 光の中で…“光と共に生きる道を選ぶ”。
 
 それこそが、戦いの終わり。


 闇と光が戦う時代は今…終わる」




僕はゆっくりとうなずいた。


その言葉を、ずっと昔から知っていたような気がした。






(つづく)

(4)






「何を言ってるんだ。ひかるさん。


 だからって…」




僕は何か、ひかるに声をかけたかった。


だからって、死ぬことはない。


そう言いたかった。


けど…言葉にならない。



 
ひかるは数歩、僕から離れて距離をとった。




「さあ、ウタマロ。


 アタシを裁くがいい。仇を取るがいい。


 アタシはここにいる。


 アタシを殺すことでその怨みが晴れるなら…


 さあ、アタシを撃て!」




空に向かって叫ぶひかる。


その声に答えるかのように…空から、一筋の光が放たれた。


それは、稲妻と呼ぶにはあまりにゆっくりとした、光の放射だった。


しかし確実に、この場所へ…ひかるの元へ向かっている。




「天野っち。


 いや…今だけは…ハルキ。


 名前で呼ばせてもらうよ。


 ハルキ。


 アタシは…結局、何もしてあげられなかった。


 何も…伝えられなかった。


 だけど、ハルキならできる。


 この戦いを終わらせることが、きっとできる。


 アタシは…アタシ一人が戦えば、他の人の分の責任を背負い込めば…


 誰も巻き込まずに済むと思っていた。


 でも、そうじゃなかった。


 人には、それぞれ生まれ持った役割がある。


 他の誰も、代わってあげることができない領域がある。


 ハルキを見ていて分かったんだ。


 ハルキなら…私ができなかったこと。


 電気スタンドを持って生まれた運命から逃げるのではなく、


 その運命を正面から乗り越えること。


 それができる。


 ハルキ。


 会えて…話ができたこと。嬉しかった。


 アタシは幸せだった。


 いいか。


 生きて…生きてくれ。


 バイバイ…ありがとう」




ひかるは目を閉じた。


真正面から稲妻を浴びるつもりのようだった。




その光が、まさにひかるを貫こうとした瞬間。




更に新しい光が、稲妻を弾き飛ばした。


その光は…僕の頭から放たれたものだった。




何が起きたのか分からなかったのか、


ひかるはキョロキョロと周りを見回していた。




「違う、ひかるさん」


僕は言った。




「復讐で…怨みは消えない。


 こんなかたちでは…悲しみは終わらない」





(つづく)

(3)






ひかるの、運命…?




「さあ、ウタマロ!聴こえるか。


 アタシはここにいる」




雨に全身を打たれながら、ひかるが叫んだ。




「あんたの仇がここにいるぜ。


 あんたの家族を殺したのは…


 アタシだ」




??


なんだって?


ウタマロの家族を…殺したのが、ひかる?


そんなまさか。


ひかるは組合には入っていない。


組合が行った闇の化身の抹殺に関わっているはずがない。




ヤマトが口を開いた。




「ひかる殿…


 ひかる殿は…10年前に、アマテラスの使者として目覚めた。


 それからずっと…組合の中で、組合のために戦い続けた。


 組合を離れたのは、ごく最近のこと…


 ウタマロの家族を殺したのも…その通り。


 ひかる殿じゃ」




予想もしていない言葉だった。


ひかるが、かつて組合の一員として…闇の化身の抹殺を行っていた。


思ってもみない事実だった。




「アタシは…自分の運命を受け入れられなかった。


 電気スタンドのはえた者として…アマテラスの使者として


 生を受けたこの自分の人生を、受け入れられなかった。


 だから…心を殺した。


 何も考えず、組織の規律に従い…組織の論理で生きる。


 それだけが、アタシが自分の存在を保つ唯一の方法だった。


 その中でどれだけ、闇の化身を葬り去ったのか…


 その数すら、覚えていない。


 相手の名前すら、覚えていない。


 組合を抜けたのは…


 そんな自分からも逃げ出したかったのかもしれない。


 どう説明をつけても、人の命を奪ってきたことに変わりはない。


 その事実から、逃げたかっただけかもしれない。


 そう…アタシは、自分の運命から逃げ続けてきた。


 ずっとずっと、逃げてきた。


 その報いは、どこかで受けなくてはならない。


 どこかで決着を着けなくっちゃいけない」




ひかるは淡々と語った。


それは誰かに向けてというより、自分自身と対話をしているようだった。




「天野っち」


ひかるはこっちを見た。




「かっこ悪いとこ、見せたくなかったけどさ。


 今まで散々偉そうなことを言ったけど…


 今言ったのが、本当のアタシ。


 弱くて、小さくて…本当は、何も守れてなんかいない。


 自分のちっぽけな心を…守るだけで精一杯な…


 臆病な人間が、本当のアタシなんだ。


 だけど…天野っち。あんたのこと。


 アタシは忘れない」





(つづく)