(8)






僕の心が流れる。




――大丈夫だよ。


誰も、愛されていない人はいない。


みんな、この世界の全ての人が…大きな愛に包まれている。


君も、愛されて…必要とされて、生まれてきたんだ。




彼の心が流れる。




――嘘だ。そんなの嘘だ。


ぼくは…愛されなかった。必要とされなかった。


たった一つの言葉すらかけてもらえなかった。


ぼくがいることにも気づいてもらえなかった。


誰もぼくがここにいることすら知らない。


ぼくのことなんて、誰にも見えていないんだ。


ぼくは無意味で…無価値な存在なんだ。




彼の心が流れる。


はなみの心が流れる。




――大丈夫…


世界中の全ての人があなたを見失っても


私があなたを見つける。


あなたに、言葉をかける。


私が、あなたを抱きしめる。


そして、あなたに名前をつけてあげる。


大丈夫。世界は怖い場所じゃない。


あなたの生きる世界は、ここにある。


だから、もう、何も…恐れないで。


あなたはあなたで、ここにいることを許された存在なんだよ。




はなみの心が流れる。


彼の心が流れる。




――・・・ありがとう。


ありがとう…


だけど…知っているかい?


知っているかい。


この世界に、本当の愛なんてない。


本当の平和なんてない。


君たちが描いているのは、


所詮空虚な夢の世界でしかあり得ない話なんだ。


現実に、この世界から闇は消えない。


言うだろう、“光あるところに闇も生まれる”。


闇は、絶対に消えない。


それこそが、この世界の最後の真実。


君たちが光を強めれば強めるほど、闇もまた濃くなっていく。


闇は消えない。


これからも、永遠に、存在しつづける。


いいかい、もう一度言うよ。


この世界に、本当の愛なんてない。


本当の平和なんてない。


君たちが描いているのは、


空虚な絵空事でしかあり得ない。


現実に、この世界から闇は消えない。




…ぼくは、消えない。






・・・・・・(間)






「あー!もう!アンタ!!


 さっきから聞いてたらウジウジウジウジ…


 やさしくしてあげたらつけあがりやがって!!


 アンタ、ちょっと勘違いも甚だしいわよ!!」






――え…………!?






はなみが、切れた。





(つづく)

(7)






昇れば昇るほど、霧は濃くなっていった。


きっとここは…「闇の電気スタンド」の電球にあたる部分。




――ふふふ…ふふふふ…




誰かの心が僕の中に流れた。




――ふふ…ふふふふ…


これで…こんなことで、本当に戦いが終わると思っているの?




――誰? そこにいるのは誰?


ウタマロ…?




――ううん、違うよ。


ウタマロは、ぼくの中にいる。


みんな…みんな、ぼくの中にいる。


ぼくは、そう…




「誰からも愛されなかった子ども」。


ぼくに名前があるならそれだ。




ぼくは…何のために生まれてきたの?


誰からも愛されず、必要とされないのに


なぜ生まれてきたの…?




ぼくは…ぼくは…もっと愛してほしかった。


もっと…必要としてほしかった。


ぼくは…ぼくは…。






それは何よりも冷たく、


何よりも悲しく


何よりも寂しい心だった。




だけど、僕は彼を知っている。


僕は彼に会いに来た。


ずっと前から…きっと、生まれる前から知っている。


彼は、ずっと僕の中にいた。


僕は、ずっと彼の中にいた。


生まれる前から一緒だった。


ずっと、ずっと一緒だった。


僕は、彼を知っている。


彼も、僕を知っている。


何よりも深く、誰よりも近い場所で


僕らはおなじ存在だった。




だけど、今。


僕は、彼に何を伝えるべきか。


どんな言葉をかけてあげるべきか。




その言葉も、僕には分かっていた。





(つづく)

(6)






「あ…あれ?」




不思議な光景だった。


はなみの体全体が、淡い光に包まれていた。


はなみだけではない。


僕自身の体も、うっすらとした光に包まれている。




「アマテラスの使者が、光と一つになる。


 闇のひとり子は、光の中で生まれ変わる。


 今、新しい光が生まれる。


 行こう、天野くん。あの雲の中へ。


 あそこで、私たちを待っている人がいる」




僕はもう一度うなずくと、はなみの手を握った。


はなみが大地を蹴る。


それは、ふわりとした感触の…不思議な跳躍だった。




ひかるが、ヤマトが見つめる中…


苦しむたくさんの人々を地上に残し、僕たちは飛び上がった。






僕とはなみは、雲の柱を…上へ上へと向かっていく。


はなみが僕の手を強く握る。


僕ははなみを強く照らす。




はなみの心が僕の中に流れる。


僕の心がはなみの中に流れる。




――ねえ、天野くん。


もしかして…きづいてないかもしれないけれど。


初めて会った日。


なぜ私は天野くんの光を受けて気を失ったのか。




それはね。


天野くんが私を恐れたから。


天野くんが、私に怯えていたから。


天野くんが、私が眠ってしまうことを望んだから。


天野くんの願いを叶えるのが、私の持って生まれてきた役割。




分かる? 


保育園での砂の文字。


あの言葉は、私じゃなくあなたの中にあったの。


あなたが心の中で知っていたことを私が書いただけ。


タヒテ像を使ってヤマトを倒したことも、あなたが考えたのよ。


全部、答えはいつも…あなたの心の中にあった。


私は、それを形にして現してきただけ。




あなたの光の中にいる時、私はどんなことでもできる。


それは誰かを傷つけるためじゃない。


あなたの想いをかたちにすることが、私に託された役割。




なぜ、私がこの街に来たのか。


私があなたを探した。


それだけじゃない。


あなたが…私を呼んでいたの。


だから、私たちは出会った。


お互いがお互いの存在を感じていたからこそ、


私たちは出会えた。






――うん。今…全部分かる。


僕が、今日まで生きてきた意味が。


はなみちゃんと出会った意味が。


全部分かる。


そして…これから何をしなければいけないかも。


全部…分かる。




僕の心がはなみの中に流れる。 


はなみの心が僕の中に流れる。




僕ははなみを強く照らす。


はなみが僕の手を強く握る。


僕とはなみは、雲の柱を…上へ上へと向かっていた。





(つづく)