(3)






その場面は、僕の中でスローモーションのように思い出せる。




「え……」


ヤマトの方を振り返った僕の後ろで、バリバリという音がした。


ガラスが…


窓ガラスが割れていく。


そして、部屋全体が揺れた。


ガラスが部屋の内側に向かって飛び散る。


僕は自分で伏せる前に、


爆風のような空気の圧力を受けて吹っ飛ばされた。


「ぐえッ」


地面に叩きつけられた後も


僕の体は数回にわたって転がり続けた。




「や、ヤマトさん…いったい?」


僕はヤマトを見たが、ヤマトは違う方向に目を向けていた。




「しまった…じいちゃん!」




ヤマトが叫んだ。


奥の部屋との間にあったはずの壁は


見る影もなく吹き飛ばされていた。




壁だけじゃない。


二階がまるごと吹き飛ばされ、空が見える。


あたりは瓦礫の山だった。




「ファファファ…こんなところに隠れ住んでいたとはな。


 探したぞ、山本ヤエモン」




男の声が聞こえた。


崩れた壁の向こう。


一人の男が立ち尽くしていた。




こちらからは逆光で、シルエットしか見えない。


かなりの長身だ。


僕は思わず頭を見たが、電気スタンドは乗っていなかった。




「もう、無益な戦いは終わりにしよう。


 これ以上の対立は何も生まない」




辺りには壁や家具の欠片が散らばっていた。


男は足元のその破片を蹴飛ばした。




「ヤエモンよ。


 お前ももう若くはない。


 そして…お前たちに勝ち目はない。


 今ならまだ、多くの命を無駄に奪わずに済む。


 無駄な血が流れずに済む。


 どうだ。


 書物を渡せば、全ては終わる」




何の話か分からないけれど、ヤエモンは椅子に座ったままのようだった。




「おい、聞いているのか。


 ヤエモン!!」




男がヤエモンにつかみかかった。




「!」




いつの間にか、椅子に座っていたはずの影が消えている。





「くっ また逃げ出したか…


 どこまでも腰抜けだな」




それから、男はこちらを見た。





(つづく)

(2)




あたまテラス ものがたり-ぷりん






僕とヤマトはプリンをスプーンですくい口に運んだ。


これはこれで確かに美味しかった。




「通販でしか売ってないんじゃ。


 今、若者の間で流行っているらしいぞ」




名前は聞いたことがあった。


実際に食べるのは初めてだ。




「で…何の話だったかのう」


わざとらしい言葉が響いた。




「そもそも、なぜ“本部に行きたい”などと思ったのじゃ。


 申込書を書く気になったか。


 印鑑と学生証を持ってきたか?」




「持ってきてません。


 ただ、知りたいことがあったんです」




そう。


知りたいことがあったはずだ。


さっきの話で、全部ぶっ飛んでいた。


何の話がしたかったんだっけ。




「その…


 全国電気スタンド組合。


 組織の、本当の目的はなんですか」




ヤマトは僕の言葉には答えず、プリンを食べ続けていた。




「闇の化身を倒し、世界を闇から守る。


 最初に会った夜、あなたはそう言ったはずです。


 その為に組織が存在すると。


 でも…闇の化身。


 それがどれだけの脅威なのか、僕にはピンと来ないんです。


 はなみちゃんを連れ去り、調べたい。


 病院を襲った少年はそう言ってました。


 組織にとって重要な意味を持つ存在だと、あなたは言いました。


 いったい、どういうことなのか…。


 もっと詳しく知りたいんです」




「知って…どうするのじゃ」


ヤマトはプリンが空になると視線を僕に投げ、言った。




「全てはあの夜に話した通りじゃ。


 世界は闇の化身の脅威にさらされている。


 ワシらはそれを守る。


 それが全てじゃ。


 今は…それしか言えん」




「今は…って、後になったら何か教えてくれるんですか」




そう言った時だった。


突然部屋中がまばゆい光に包まれた。


僕もヤマトも窓の方向を見た。


光は、外から差し込んでいた。




「なんだ、この光は…」


僕は窓に近づこうとした。




「危ない、伏せるんじゃ!」


ヤマトが叫んだ。





(つづく)

第17章






(1)






「なぜです。


 いったいなぜ…僕の記憶を消す必要があったんですか。


 なぜ10年間、僕を見守り続けたんですか。


 それから…


 どうして、今になって…


 僕の前に現れたんですか」




僕はヤマトに尋ねた。




「はじめは…、たった一つの約束じゃった」




ヤマトは話し始めた。




「お主を組織には入れないこと。


 その為に、組織に関わる記憶は全て消すこと。


 じいちゃんはある人物と、そう約束を交わした」




「ある人物って…誰ですか」




「今は言えぬ。


 何しろ、お主の記憶を奪ってまで交わした約束じゃ」




この期に及んで、まだ隠さなければいけないことがあるのか。




今まで生きてきたこと。


僕が自分で生きてきたと思っている過去の出来事。


それはどれだけが本当の体験なのか。


操作された記憶。


頭がおかしくなりそうだった。




「ただ、安心していい。


 じいちゃんがお主から奪ったのは、


 組織に関する記憶のみ。


 それ以外にお主の記憶に足したものも引いたものもない。


 お主は自分の足で生きてきた。


 それは変わらぬ事実じゃ」




その言葉も、僕には信じていいとは思えなかった。。




「そして…なぜ、今になってお主を組織に招きいれようとしたのか。


 そう。我々は…


 本来は、お主には組織と関係のない人生を歩んでほしかった。


 しかし…運命とは皮肉なものじゃ。


 そうはさせない方向に、歯車は回り始めた。


 それは誰にもどうすることもできない、運命の歯車だったのじゃ」




何を言わんとしているのか、飲み込めなかった。


“組織と関係ない人生を歩んでほしかった”


その言葉もまた、予想していないものだった。




「運命の歯車…それって、なんですか」




「時が来たのじゃ。


 そしてそれは、我々の思ってもいない方向へ、我々を導き始めた」




「何のことを言っているのか分かりません。


 もっと分かるように教えてください」




「あ!」




急にヤマトが叫んだ。


その場ですくっと立ち上がった。


突然の声に僕は驚いた。




「どうしたんですか?」




「美味しいプ、ぷリンを冷やしておいたんじゃ。


 一緒に食べようと思っての」





…話題をそらしたいだけ


っぽかった。






(つづく)