(6)






「って…こんな場所で、大丈夫なんですか」




ヤエモンじいさんとヤマトが向かった先は、


駅近くの喫茶店だった。




「とりあえず今日はもう襲ってこんじゃろ。


 ここで作戦を練る」




ヤエモンはチョコフルーツパフェを注文した。


僕とヤマトはブレンドコーヒーを頼んだ。




存在がけして公になることがないはずの


「アマテラスの使者」が、


3人でテーブルを囲んでお茶をしている光景。


これでいいのだろうか。




「もっと組織の人って…


 たくさんいるんじゃないんですか。


 最高指導者の周りに


 部下とか警護とか、いないんですか」


僕はいろいろ腑に落ちなかった。




「たくさんはいない、といつかも言ったはずじゃ。


 我々は選ばれし者だからな」


ヤマトが答えた。




「でも、世界中にいるんですよね。


 そして闇の化身と戦っているんですよね。


 でも、あいつは…ウタマロは、


 この電気スタンドこそが悪魔だと言ってました。


 自分たちは“竜の一族”だと。


 何かそう言われると…そっちが正しいような気がします。


 名前もカッコいいし」




――自分の道は、自分で確かめろ。


そう言ったひかるの言葉が頭をよぎった。


僕にはますます何を信じればいいのか、


道が見えなくなっているように思えた。




「彼らは彼らで正義を主張する。


 当然のことじゃ。


 人間はみな、自分が悪と思って道を踏み外すのではない。


 正義と信じた選んだ道が奈落へつながることもある。


 ほとんどの場合、それは道の中途では気づかないものなのじゃ」

  
ヤマトが言った。


他の人ならともかく、ヤマトの言葉にはあまり説得力がなかった。




「はっきり言って奴は…ウタマロは強い。


 まともに戦えば、我々は全滅するじゃろう」


ヤエモンが言った。




「えええ?


 それって、やっぱりこっちが悪なんじゃ…」




こっち、と言った自分の言葉に、


あれ、と思った。




いつの間にか、組合に入るか入らないかではなく


「電気スタンドがはえた者」としてのくくりの中に


自分を置いていることに気づいた。




誰が何を言おうと、この世界に僕は


電気スタンドを持つものとして生を受けた。


それだけは確かな真実なのだ。




「安心するんじゃ。ワシらは負けん」


ヤエモンが言った。




「このワシの持つ予言の書…


 “千年予言”が成就するとき、全ての戦いは終わる」




「よ、予言書…


 ウタマロがほしがっていた…


 そんなものが存在するんですか」




「うむ。


 ここに…我々の進むべき全ての道が記されておるのじゃ」




ヤエモンは、懐から一冊の本を取り出した。





(つづく)

(5)






「ふー、怖かった」


突然、足元から声がした。




「わ、な、なんだ?」


僕が驚いて足をどかすと、


そこから電気スタンドが出てきた。




「アイツ、嫌いじゃ。


 いつもいつも、怖いんじゃもん」




ヤエモンだった。




「じいちゃん! 無事だったか」とヤマト。




「無事も何も…また、住所がばれてしもうた。


 しかもこの有様。


 また引っ越すしかないのう」




瓦礫の中から現れたヤエモンは、


自分の体からパラパラと砂を払った。




僕はなんだか拍子抜けした。


「あれが、闇の化身なんですか?


 だとしたら、戦う相手じゃないんですか。


 闇の化身から、世界を守るために


 組織を作ったんじゃないんですか」




「うむ。その通りじゃ」




「じゃ、じゃあなんで引っ越すとか、弱腰なんですか。


 今だって隠れてないで、戦う場面だったんじゃないんですか」




「い、いや…


 ワシももう歳じゃし…」


そう言うとヤエモンは頭をかいた。




「じいちゃんは高齢じゃ。もう闇の化身とは戦えない」


ヤマトが言った。




弱気だ。弱気すぎる。


こんな人がトップにいる組織に、


僕らは今まで振り回されていたのか。




「で、でも、ヤマトさんは相手にもされてませんでしたよ。


 いったい、誰が戦うんですか」




「………」




静まり返ってしまった。




「ま、まあとにかく…この家を、どうにかしなければのう」


ヤマトが言った。


僕も辺りを見渡した。




住宅地の真ん中で、


この家だけがきれいに崩れ去っていた。




「しばらくは、どこか仮の住まいを探すしかないじゃろうな」



あくまで、逃げ腰だった。






(つづく)

(4)






目と目があった。


すらりとした体に、夏とは思えない臙脂色のコートを羽織っていた。


マフラーまで巻いている。


見ている方が暑くなるようないでたちだ。




「ヤエモンの弟子…か。


 どいつもこいつも、似たようなガラクタを頭に乗せて


 アホ面を下げて…


 見ているだけで哀れになる。


 君たちも自分の存在が恥ずかしくないのかい?」




いきなり失礼な奴だと思った。


しかし、建物を爆破して現れたような男に


礼儀を求める方がおかしいのかもしれない。




「ウタマロ…」


ヤマトがつぶやいた。




「ウタマロ?」


僕は聞き返した。




「奴の名じゃ。こやつも、闇の化身なのじゃ」


「!」




それを聞いてウタマロは目を閉じた。




「闇の化身…か。


 君たちアホ電気スタンド頭では


 その程度のことしか考えられないんだろうな。


 僕たち“竜の一族”こそ、世界を統べるべき存在なのに」




そう言うと小さな瓦礫の破片を拾い上げ、握りつぶした。




「まあ、すぐに分かるようになる。


 君たちこそが悪魔の使いであることが。


 その不細工なプロポーションが


 何よりの証拠だと思わないのかい。


 神の創りし世界に君たちのような醜い存在がいる。
 
 それだけで大罪というものだよ」




随分な言いようだ。




「どっちみち、今日は引越しの挨拶がわりのようなものだ。


 ヤエモンに伝えておけ。


 予言書は、必ずこのウタマロがいただく…とな」




予言書…?




そう言うと男は、瓦礫の中から何か掘り起こした。


「ちっ 火薬の量が思ったより多かったぜ」


出てきたのは、自転車だった。




「さらば」


男は、自転車にまたがると、それをコキコキとこいで走っていった。




姿が見えなくなるのを、


僕はごちゃごちゃになった頭で見つめていた。





(つづく)