(3)






はなみが、最強最後の闇の化身。




「あ、で、でも…


 さっきのウタマロだって、相当強いんですよね。


 あいつが“闇のひとり子”である可能性はないんですか」




「ウタマロか。


 確かに奴は強い。


 しかし、奴の強さは肉体の強さ、知性の強さじゃ。


 電気スタンドの光を真正面から浴びれば、


 その光には屈するじゃろう」


ヤエモンが言った。




「何より、奴の最期まで予言書には記されておる」




「ほ…本当ですか。


 何て書かれているのですか」




「えーとじゃな…


 “ウタマロは…寿命をまっとうするであろう”」




僕は分かりやすく口に含んでいたコーヒーを吹き出した。




「ぜ…全然、倒してないじゃないですか」




「つまりじゃ。


 奴は最後の戦いには無関係なのじゃ。


 奴と関係なく、お主とはなみ殿の間で最後の決戦が行われる。


 ウタマロはそれに関与することはあっても、


 戦いの中で中心的な役割を果たすことはない。


 それが予言書の告げる内容じゃ」




本当にその解釈は正しいのだろうか。


僕とはなみの間で繰り広げられる決戦。


なんだか想像もつかなかった。




「まあ…僕にはどの内容も本当とは思えませんが…


 ウタマロは、なぜこの予言書…とうか、日記帳。


 こんなものを欲しがっているのですか。


 彼にはこの日記を解読することは


 できないんじゃないですか。


 (字が下手すぎて。)」




「奴は恐れておるのじゃよ。


 ワシらがどう戦い、勝利を治めるか。


 その詳細が、明日にも書き記されるかもしれない。


 この予言書が我々の手の内にある限り、


 ワシらはこの戦いにおいて主導権を握り続けることができる」


ヤマトが答えた。




「で、でも…


 結局は、ヤエモンさんの書いた日記ですよね。


 この本自体がウタマロに渡ったとしても、


 日記なんて何にでも、別の紙にでも書けるじゃないですか。


 予言は現れ続けるんじゃないですか」




「お主は細かいことをいちいち気にするのう。


 一冊の予言書を巡って戦う。


 それがカッコいいとは思わんのか。


 そっちの方がドラマチックじゃろ」




出た。


ヤマトのドラマチック論。


あらゆる理屈を越えて、感性に身をゆだねる世界観・人生観だ。



「そう。ドラマチック。


 それに勝るものはない。


 かっかっか」


ヤエモンが笑った。




ああ、そうか。


ヤマトの価値観に影響を与えたのは…このじいさんなのだ。


僕は理解した。





(つづく)

(2)






「ここに、お主の名前も書いてある。


 アマノ ハルキ とな」




指さされたところを読んだけれど、


どうやったらそう読めるのか分からなかった。




「なぜワシらが


 新たなアマテラスの使者の誕生を知ることができるか。


 闇の化身の存在を探し当てることができるのか。


 全てはこの予言書のお陰なのじゃ。


 じいちゃんが毎日書き記す日記。


 その中に暗号となってそれらの情報が現れる。


 然るべき時に、然るべきかたちでな。


 そして、ワシらと闇の化身の戦いがどう終わるかも…


 この予言の中にあるのじゃ」




「戦いの…終わり」




はるか昔から繰り返されてきたという


その戦いの歴史に、終わりがあるのか。


僕はその内容が知りたかった。




「いったい、何て…書かれているんですか」




「お主は組合員にはなってないからのう…


 本来は秘密なんじゃが…」




ヤマトはどうするべきか迷っているようだった。




「しかし、お主は当事者でもある。


 教えてもいいかのう、じいちゃん」




「まあ…いずれにせよ、


 いつか知ることになるじゃろう。


 話してやるがよい」




ヤエモンが答えた。




「この予言によれば…


 悠久の時をへて続いてきた我らの戦いは…


 間もなく終わりを告げる。


 予言にはこうある。




“天野ハルキが、闇のひとり子と出会いしとき…


 す べて…全ての戦いは…


 おわ… 終わるで あろう”」




ヤマトの言葉はたどたどしかった。




「本当ですか? 


 本当にそんなこと書かれてるんですか?


 そのまま、僕の名前じゃないですか」




「この予言が現れたのが、ちょうど一ヶ月前じゃ。


 ワシらは…かつて一度存在を忘れ去ったお主に、


 もう一度光を当てるしかなかった。


 かつて交わした約束を破ってでも、な」




本当かどうか疑わしくもあったけれど、


僕の名前があると言われるのは


背中がむずかゆくなるような感覚だった。




「それで…その、“闇のひとり子”っていうのは、何なんですか」




「それか。


 それこそが、この予言書において最大最後の謎じゃ。


 しかし、これまでの内容を整理するとじゃな…


 長い戦いの終わりに、


 全ての闇の力を結集させた、最強の闇の化身が生まれる。


 その最後の闇の化身が、“闇のひとり子”じゃ。


 闇のひとり子は電気スタンドの力に屈せず、


 電気スタンドの光を浴びるほどに力を増す。


 どうやって倒せるのかは… 


 まだ、予言にはない」




「ちょ…ちょっと、待って下さい。


 <電気スタンドの力に屈せず、


  電気スタンドの光を浴びるほどに力を増す>


 そ…それって」

 



「うむ。


 彼女こそ…現時点で最も


 “闇のひとり子”である可能性が高いじゃろう。


 ・・・酒槻はなみ」





(つづく)

第18章






(1)




あたまテラス ものがたり-18-1




ヤエモンは一冊の本をテーブルに置いた。




「この千年予言こそ、我々の存在の拠り所となるもの。


 ワシらの進むべき未来が記された書じゃ」




それは、古びたハードカバーの本だった。


サイズで言えばB5に近いだろうか。


ところどころ破れたり汚れたりしている。


千年と名がつくだけあって、


それなりの歴史を感じさせた。




「いったい…誰が書いたんですか」




アマテラスの使者がいつの時代から


存在していたのか知らないけれど、


過去の先人たちが残したものなのだろう。




「書いたのは…ワシじゃ」


ヤエモンが言った。




「は?」


僕は耳を疑った。




「書いたのは、じいちゃんだ」


ヤマトが念を押すように言った。




「主に、前の日に何があったかを毎日書き記しておる」




「それって…普通、予言じゃなくて


 日記帳


 って言うんじゃないですか」




「まあ…そうとも言う」




僕はヤエモンの前に置かれたチョコフルーツパフェを


テーブルから叩き落としたい衝動にかられた。




「そんなものに、何の価値があるんですか。


 なぜウタマロはそんなものを欲しがっているんですか」




「話は最後まで聞くことじゃ。


 この、じいちゃんが書いた毎日の日記。


 それを電気スタンドの明かりで照らしてみなされ」


ヤマトが言った。




電気スタンド…


僕は自分の頭のスイッチを入れてみた。


明かりが、日記帳を照らす。




「あ…」




日記帳に書かれた文字の一部が、


光を受けて輝いている。




「じいちゃんの書く文章には、不思議な力がある。


 その輝いた部分だけを読んでみることじゃ。


 それこそが、この書が千年予言と呼ばれるゆえんなのじゃ」




「おお…」




僕は日記を手にとって、近づけてみた。




「これは…」




そこに書いてあるのは…


解読不能の象形文字だった。




「じいちゃんの字は、クセがあってな。


 本人にしか読めん」





(つづく)