(7)






僕、ヤマト、ヤエモン、はなみ。


4人がみずきのベッドを囲むようにして立っていた。




「こんなところに書いてあったとはな。


 道理でいつまで経っても現われないはずじゃ。


 はるか昔、遠き日にすでに記されていたのじゃからな」




ヤエモンが言った。




「ど、どういうことですか」




「ここに…記されておったのじゃ。


 最後の戦いの、詳細な内容がな」




え…




驚いた僕をよそに、ヤマトは読み始めた。


解読された予言を、淡々とした口調で。




「その日…


 世界は闇に包まれる。


 世界中の闇の化身が…その者の元に集まる。


 その者の名は天野ハルキ。


 全ての命運を握る者なり。


 天野ハルキが闇のひとり子と出会いし時。


 全ての戦いは終わるであろう」




最後の部分は、前に聞いたことがある内容と同じだ。




「ここにも…戦いの結末については詳しく書いてない」とヤマト。


「それは…もはや予言できる領域ではないのかもしれん」とヤエモン。




「待ってください…


 “世界中の闇の化身が集まる”


 これって…どういうことですか」




「・・・・・」




全員無言になった。




「恐らく、そのままの意味じゃ。


 最後の戦いの時。


 お主の周りは闇の化身たちによって溢れかえる。


 恐らく…今までに体験したことのない、


 恐ろしい運命が待っていることじゃろう。




 …幸運を祈る」




ヤエモンが言った。




「ちょ…そ、それ、どうしたらいいんですか。


 みんな…助けてくれないんですか」




「全ての命運は…お主にかかっている。


 それが…予言の告げる内容じゃ」




「そ、それって…」


僕は言葉に詰まった。




「で、じゃ、じゃあ…


 その、最後の戦いが起こるのはいつなんですか。


 それは、予言されてないんですか」




「おお、読み忘れておった。


 ええと…


 8月、31日。


 20XX年 8月31日じゃな」




ヤマトが言った。




「そ、それって……」






今日だった。





(つづく)

(6)






病院の屋上。


夕焼けが見える。




「ヤエモンさん…きっと、ずっと…


 今でも、想っているんだよ、おばあちゃんのこと。


 若い日の二人がどんなだったか知らないけれど…


 こんなにも長く想ってくれる人がいて、


 おばあちゃん…幸せ者だと思うな」




はなみがつぶやいた。




僕もつぶやいた。




「でもさ…おゆきさんとヤエモンさんは結ばれることはなかった。


 僕には分かるような気がする。


 こんな頭で、まっとうに家族を持つことなんて…


 きっと、簡単なことじゃない。


 おゆきさんは…きっと、ヤエモンさんのこと…


 好きにならなかったんだと思う」




「そうかな?」


はなみが言った。




「でも、おばあちゃんは…ヤエモンさんからもらった手紙を、


 ずっと大事に…書庫の奥の、


 滅多に誰の目にもふれない場所にしまっておいた。

 

 (読めもしないはずなのに。)




 それって、きっと…偶然じゃあない。


 二人は結ばれなかったかもしれないけれど…


 二人の間には、なにか特別な絆があったんだと思うな。




 そういうの…なんかステキだと思う」




はなみの横顔は夕焼けに照らされて、紅く色づいて見えた。




「だとしたら…


 自分のおばあちゃんに、


 おじいちゃん以外の親密な男性がいたとしたら…


 嫌に思ったりしないの?」




僕は尋ねた。




「ええ?

 

 天野くん、そんなこと気にするの?


 なんとも思わないよ。


 だって…昔の話だし。


 それにね、嫌っていうよりは、やっぱりステキって思う。


 おばあちゃん、やるじゃん! て感じかな」




そういうものなのか。




「それから、天野くん」




「ん……」




あたまテラス ものがたり-19-1





「その頭だから…


 誰かを好きになっちゃいけないとか、


 そんなこと思ってるなら…それは、違うと思う」




「な、なにそれ」




「だって今、そんなようなこと言ってたでしょ。


 家庭を持つなんて簡単じゃない、とか。


 はじめから可能性を限定するっていうかさ。


 自分を過少評価するって言うのかな。


 天野くんのそういうところ、


 直した方がいいんじゃないかな」




話の展開と矛先が意外な方向を向いたことに、


どうしていいか分からなかった。




「いや、そ、そんなに深い意味を持って言ったわけじゃ…」


うまくろれつが回らなかった。




「ま、いっか。


 天野くんて、なんか恋するとか恋愛って言葉より


 愛って言葉が似合う気がする。


 愛。


 LOVEよ、LOVE!」




「こ、恋もLOVEだけど…」






後ろから咳払いが聞こえた。




「何やら取り込み中悪いが…」




ヤマトだった。




「やはり…あれも、じっちゃんが書いた文章じゃ。


 解読が終わった。


 あの文章にも…間違いなく、予言が隠されていた」





(つづく)

(5)






僕は電気スタンドの光をつけた。


みずきがバッグから取り出した紙を光にかざす。




「あ……」




紙一面に書き連ねられた文字のうち、一部分が輝き出す。




「ほ、本物だ」




間違いない。


ヤエモンの日記を読んだ時と同じだ。


この輝く文章を読めば…何らかの意味を持つ言葉になる。




しかし…僕らには、それを解読することは不可能だった。




「なぜか分かりませんが、これは確かに本物みたいです。


 これを読める人が読めば…書いてある意味が分かる」






「ほほおお~ こんなところにあったとはな!」


突然ベッドの下から声がした。




「酒槻という名を聞いた時から…もしやと思っておったがな。


 お前さんたち、やはり酒槻ゆき。


 おゆきさんの縁の者じゃったとは。


 これもめぐり合わせというものか」




顔を出したのは、高齢の電気スタンド。


山本ヤエモンだった。




「ヤエモンさん、い、いつの間に……!」




「そんなことはどうでもいい。


 おゆきさんは元気かの?」




ヤエモンは当然のように、ベッドの脇にあった椅子に腰を下ろした。




「おゆきさん…ゆきおばあちゃんは、私たちが小さい頃に亡くなりました。


 もう…15年になります」


みずきが答えた。


普通に会話が続いていることに僕は驚いた。




「そうか…。残念じゃ。


 生きてもう一度会いたかった」


ヤエモンはうつむいた。




「あ、あの…あなたは、おばあちゃんとはどんな関係が…?」




「ワシの…初恋じゃった」


ヤエモンは遠い目をした。




「え…ええええ」




「若かりし日の、この老いぼれの生涯ただ一度の恋…


 その相手が、おゆきさん。


 酒槻ゆきさんだったのじゃ。


 それは手紙… ワシが書いたおゆきさんへの恋文じゃ」




予想外の展開に、僕は座っていた椅子から落ちるかと思った。




「もちろん…一方的な片思いじゃ。


 ワシの想いが成就することはなかった。


 若かったがゆえの…


 淡く幼い恋であった」





(つづく)