(6)






「いいか、よく聞くのじゃ。


 今からはなみ殿をそちらに向かわせる。


 はなみ殿と会うこと、まずそれを第一に考えろ。


 “闇のひとり子”を倒すこと。


 恐らく、それ以外にその現象を止める方法はない。




 お主とはなみ殿の間で、最後の決着を着けるのじゃ。


 そうしない限り、世界には闇の化身が溢れていく。




 現れた闇の化身に関しては…組合員は抹殺に始動する。


 一人でも多くの人を救いたければ…


 一秒でも速く、はなみ殿を倒すのじゃ」




ヤマトが電話口で言った。




「そ…そんなこと、できません。


 はなみちゃんを倒すって…殺すってことですか?


 できませんよ。


 それから…闇の化身を殺し始めるって


 それもやめて下さい。


 なんとか…なんとか、みんなを助ける方法はないんですか」




「ハルキ殿。


 もう少し分別をわきまえていると思っておったがの。


 分かるか。そんな都合のいいようにはいかんのじゃ。


 闇の化身は殺戮の鬼。


 殺さなければ、他の市民が殺される。


 それこそ、今日が本当に世界が終わる日になってしまう。


 はやく、できる限りはやく。
 
 はなみ殿との合流を急ぐのじゃ」




戦うために、合流する。


何だかおかしな話だ。


そして、駄目だ。


これ以上ヤマトと話していてもらちがあかない。


僕は電話を切った。




「うわあああ、に、兄ちゃあーーん!」


マサキの叫び声。


僕は声の方向を見た。




マサキが何者かに首をつかまれている。


見覚えのある顔。


隣の八百屋のご主人。鈴木さんだった。




「マサキくん…大きくなったねえ。


 もう、小学校5年生だっけ。


 昔は、こんなに小さかったのに…」


何かをブツブツと呟いている。




普段の鈴木さんと見た目には何も違わないのに…


発するオーラ、周りの空気が全く違う。




この人も。


僕は瞬間的に判断した。




「やめろ。


 その手を離せ。マサキを放せ」


僕は鈴木さんに言った。




「こんなに立派に大きくなって…これから、


 死ぬというのに」




僕の声が聞こえている気配はなかった。


マサキをつかむ腕に力が入るのが分かった。


このままでは…マサキが殺される。




「殺さなければ、他の市民が殺される」




そうなのか。


ヤマトの言う通りなのか。




僕は…電気スタンドのスイッチを入れた。





(つづく)

(5)






「もしもし」


ヤマトが電話に出た。




「もしもし、ヤマトさん。


 闇の化身と戦うには…どうしたらいいんですか。


 この光…強く浴びたら、闇の化身は死んじゃうんですよね?」


僕は早口で言った。




「どうしたのじゃ。組合に入る気になったのか」


「ちょ…まだ、そんなこと言ってるんですか。


 それから…闇の化身て。


 本当に、何なんですか?
 
 普通の人が突然闇の化身になるって、あり得るんですか?」




「仕方ないのう。


 本来は組合員以外はサポート対象外じゃが…


 お主はもう、我々全体の運命を背負う宿命じゃしな。


 しかし…本当に、残念じゃ」




「な、何が」




「あの日…7月の、あのひなた野駅でのこと…覚えておるかのう。
 
 あの時、お主を組合に入れることができていれば…


 このひと月の時間をかけて、立派なアマテラスの使いとして…


 闇の化身を討つ者として育てられたはずじゃ。


 それができなかったのは…ワシらの力不足ゆえ。


 申し訳ないのう」




「そんな…僕はそんな風になりたいわけじゃない。


 ただ、僕の周りに…闇の化身が現れる、それは事実なんです。


 教えてください。


 今、闇の化身……


 化身、らしき人が、二人。僕の家にいます。


 電気スタンドの光で、今は意識を失ってますが…


 このままにしていても、また目が覚めれば多分、僕らを襲ってくる。


 どうしたら…いいですか」 




「何を言っている。


 闇の化身を生かすことはできない。


 救うことはできない。


 今すぐ、抹殺しろ。


 お主の光でどこまでできるか分からんが…


 一人残らず、殺すのじゃ」




駄目だ。ヤマトはあてにならない。


結局、闇の化身を殺すことしか考えていない。




「いいか、よく聞くのじゃ。


 闇の化身とは…その身を闇に支配されし者のこと。


 しかし、それは…その素質は、


 目には見えぬ情報として人類の中に刻まれておる。


 きっかけがあれば…全ての人間に、闇の化身となる可能性はある。


 今、お主の前に現れ始めているのはそれじゃ。


 過去には一家まるまる全員が闇の化身となった例もある。


 倒さねば、次々と溢れていくぞ」



目の前が真っ暗になった。





(つづく)

(4)






「言ったじゃない、逃げたら駄目だって」




ちなつが僕の目の前に立っていた。


それは、もちろん僕がよく知っている妹。


紛れもない本人なのだけれど…


父さんと同じだ。何かが違う。




「お兄ちゃん。


 お兄ちゃんは、逃げないわよね。


 お兄ちゃんは、優しいもの。


 いつも、私のお願いを聞いてくれたもの」




そう言うと、僕の胸ぐらをつかんだ。


すごい力だ。


僕の体を片手で軽々と持ち上げた。




人間離れしている。


そう、人間離れ。


僕ははなみを思い出した。


暴走するはなみ。


誰よりも高く跳ぶその力。


誰よりも速く走るそのスピード。




この力は…。


そうなのだとしたら。




僕はちなつにつかまれたまま、右手を頭の上に伸ばした。


電気スタンドのスイッチが入る。


輝きが、辺りを照らす。


ちなつを照らす。




「な…こ、この光は…


 ど、どういうこと?


 …お兄・・・ちゃん」




光と共に、僕をしめつけた力が弱まっていく。


やがて手は僕から離れた。




「こ、これは、いったい… 


 お兄ちゃん。


 私… わたし、どうなっちゃったの…」




ちなつの体が崩れ落ちた。




「アマテラスの光」を受けて、力が弱まる。




これは、やはり…闇の能力。




「僕の周りに、世界中の闇の化身が集まる」


ヤマトはそう言ったけれど、


これは…そんな状態ではない。




「僕の周りの人々が、闇の化身になっている」。




そんなことがあり得るのか?


闇の化身とは…一部の限られた者のことではないのか。




何かが起こり始めている。




陽が沈んだ空には、黒い色の雲が広がり始めていた。





(つづく)