近く難しい仕事が入るので、その前に行かねばと思っていた所があって、そこに行こうとしたら急に雨が降って来た。

今日は行けないと諦めた。

しかし、そかといって仕事をしょうとする気にもならない。

困ったことだ。

期限が迫っている。

いつも期限が迫ってきてからでないと手を付ける気がしない。

依頼主も私の仕事が遅いと思っているのか、余裕をもって仕事を持って来てくれるが、いつも期限ぎりぎりになってしまう。

昔なら今の様な仕事をしていたらすぐに仕事を干されていただろう。

でも今は私のような職人がいなくて困っている。

それをいいことに私は仕事をなめていた。

それがいけなかった。

 

 

この前もできると大見えを切って引き受けた仕事だったが、どうしても上手く染められなかった仕事があった。

自分の技術でどうにかなると思っていたからだったが、いざ仕事に取り掛かると上手くいかない。

きっと方法が間違っているからだろう。

私もプロとして長年やってきた仕事である。

依頼主にできませんとは言えない。

何とかしなければならない。

でもいろいろ試しても上手くいかない。

先人がどの様な方法で染めたかさっぱり分からない。

そうこうしている間に期日は迫ってくる。

ああどうしょう。

 

はっきり出来ませんといって、頭を下げて断るか。

だが今更断るにしても時間が無い。

私の仕事は伝統芸能の仕事だ。

このままでは公演に支障を期すかも知れない。

ここで想い出したのが、エアブラシだった。

職人としてこれは禁じ手だが仕方がない。

昔よく遊びで使っていたので、使い慣れている。

で、恥ずかしい話だが、エアブラシを使い危機を何とか脱することができたのだった。

 

しかしながら、なぜいつもこうなるのだろうと思う。

期限が迫っていつもバタバタしてしまう。

仕事を引き受ける場合、出来るかできないかもっと吟味すべきなのだ。

今回もまたそれが出来ていなかった。

依頼主もまた仕事が欲しいから簡単に引き受けて、私に仕事を投げていってしまう処もある。

私もだが、依頼主もどこかで何とかなると思っているのだろう。

今までは何とかなったが、これからは分からない。

にっちもさっちも行かなくなって、仕事を辞めることになるかも知れない。

 

華やかな世界と地味な世界。

私は無論地味な世界の住人だ。

華やかな場所とは縁遠い。

でも華やかな世界の人たちも、裏では厳しい稽古に明け暮れている。

光の当たる世界ほど、影が濃く厳しく残酷のように思う。

でも残酷な世界だからこそ、余計に煌びやかに見えるのかも知れない。

 

私のように華やかな世界を脇で支えている方も多くいるのだろう。

どの世界もそうのような人たちの努力で成り立っている。

しかし、どの世界も人材難で悩んでいる。

私ももう少しすれば仕事を辞めることになる。

当然私の仕事もそうだが、技術は受け繋がれない。

大した技術ではないが、その技術には多くの人たちの知恵と汗が混じっている。

他にも私のような職人がまだいるだろう。

でも私と同じ職人といえど、技術はまた違うはずだ。

当然技術の幅は少しづつ狭まっていき、最後にはどうにもならなくなってくる。

それが思っているよりも早くなる可能性が高い。

 

悲しいことにもう元には戻れない。

戻りたくても戻れない。

辛くて悲しいことだ。

これはどの世界でもいえることだが、これをデジタル化してAIに教えることも難しいこともある。

私にはもう関係ないといえば済むことだが、今のままの日本であってもらいたいからそう簡単に知らないといえない。

でもこの先、今までの日本であり続けるのはもう難しくなっているのだろう。

大袈裟でなく限界に近いはずだ。

私達の環境が急激に変わるのはもうすぐだ。

 

その時は日本の他の分野も急激に変わる。

私達の田舎も無くなる。

そのことを私達は耐えられるのだろうか?

日本中に大きな動揺が走ることは確かだろう。

でもどうすることもできない。

侘しいような廃村の風景どころではない。

日本中の田舎が廃村になるのはもうすぐだ。

政府は赤字の市町村に悩んでいるのは分かるけど、外国人が田舎を占領するのはもっと気持ち悪い。