王さま(心の声)
(今、私は地上から150mの高さの吊り橋に立っている。
 なぜ、王である私がこんなところにいるのか・・・。
 きっかけは大臣からの提案だった)

大臣(回想)
「王様。
 今年は水害や猛暑など気象条件があまりよろしくなく、
 我が国で獲れるはずの野菜や穀物が不作でございました。
 国民たちの士気も下がっております。
 ここは一つ、祭りを催してはいかがでしょう。」

王さま(心の声)
(話はトントン拍子で進み、
 3日後には祭りが催されることになった。
 ここで大臣がもう一つ提案をしたのだった)

大臣(回想)
「祭りにはやはり目玉となるイベントが必要ですな。
 そうだ、国王。ご存知ですか?
 この国には国民の士気が下がった時、
 王さま自らがバンジージャンプをして士気を高める風習があるのです。
 王さま!バンジーやりましょう!」

王さま(心の声)
(話はとんとん拍子で進んだ。
 そして、今に至る。
 私は地上から150mの高さの吊り橋の上にいる。
 足には街の仕立て屋が作ったバンジー用の特注ゴムをつけられて。
 しかし、問題はこのゴムだ。大臣は言った)

大臣(回想)
「王様。
 街の仕立て屋にバンジーのゴムを発注したのですが、
 なんせ急なオーダーだったので仕立て屋からも『無理です』という返事しか返ってきませんでした。
 しかし、『何とか間に合わせろ!王が死んでもいいのか!』と切迫した状況を伝えると
 『わかりました。何とかします』という返事が返ってきました。
 よかったですね。」

王さま(心の声)
(言い出しっぺなのに、
 『よかったですね』という他人事のスタンスなのが何とも腹立たしいが
 とにかくゴムは用意された。
 しかし、私の足にゴムをセットしながら、仕立て屋は言った)

仕立て屋(回想)
「王さま。
 時間がなかったので素材の調達に難航したのですが、
 たまたま特注の素材が手に入りまして・・・。
 こちらのゴム、なんとバカには見えないゴムなのです。
 もちろん、王さまにはお見えになりますよね?」

王さま(心の声)
(正直に言おう。
 見えてない。
 足にゴムを巻かれてる感触なんかない。
 で、今、私は吊り橋の手すりのない部分に立っている。
 これはヤバいんでないか。
 バカに見えない服とかならまだしも、バンジージャンプのゴムぞ。
 これ、誰かが止めないと死者が出るぞ。
 国民の景気付けの祭りで。)

仕立て屋(心の声)
(大臣からの発注で100mのゴムを用意しろと言われたが、やはり無理だった。
 っていうか『何とか間に合わせろ!王が死んでもいいのか』という、
 王さまを人質にとった強盗のような言葉に圧倒され、
 私は渋々仕事を引き受けた。
 ひとまず、バカには見えないゴムというウソで窮地をしのいだ。
 っていうか、なんで王さまウソに乗った?
 『ゴムなんかないじゃーん』『てへっ』の流れでしょ。
 なに手すりのない部分で目を閉じて、
 左右の手を大きく広げ瞑想をしているの?!)」

王さま(心の声)
(なぜ誰も止めようとしない。
 どう見ても、足に何もつけてない王さまが吊り橋から飛び降りようとしてる光景だよ。
 側近なら止めるよね。
 『何もつけずにそっから落ちたら危ないですよ』って言うよね。
 なんだったら、私が王さまじゃなくたって言うよね。)

大臣(心の声)
(バンジー用のゴムが納品されるタイミングで、仕立て屋は言った。
 『このゴムはバカには見えないゴムだ』と。
 私には見えなかったが、とても見えないとは言えなかった。
 しかし、王さまも仕立て屋も、当然のように準備を進めている以上、
 あの二人にはゴムが見えているのだろう。
 私は祭りが滞りなく進めるのが役目。
 ここは段取り通り進行しよう。)

大臣
「王さま!
 準備ができたら合図をください。
 カウントダウンします!」

王さま(心の声)
(止めるどころかGO待ち?
 今、私のきっかけ待ちなの?
 なんとか時間を引き伸ばさないと・・・)

王さま
「今・・・、こうして風とたわむれてるから、もう少し待ちなさい。」

王さま(心の声)
(風とたわむれてる間に日没になって中止にならないかな・・・。)

仕立て屋
「あ、王さま!」

王さま(心の声)
(仕立て屋?まさか助け舟を?)

仕立て屋
「ちょっとゴムが緩んでいるようです(ゴムを縛り直す動き)。」

王さま(心の声)
(いや、縛りなおすだけかーい!)

王さま
「おぉ・・・、すまんな。」

仕立て屋(心の声)
(ダメだ。
 『いや、ゆるいも何もゴムなんかないじゃーん』『てへっ』の展開を期待したのに、
 普通に縛り直すアクシデントとして流されたんだけど。)

王さま(心の声)
(あ、このやりとりで時間稼げないかな)

王さま
「仕立て屋。」

仕立て屋
「はいっ!!」

王さま
「もうちょっとキツく縛って。」

仕立て屋
「あ、はい。」

仕立て屋(心の声)
(どういうオーダー?
 『そうそう、ゴムをこうやって縛ってもらって・・・ってバカ!』っていう
 長ーいノリツッコミが来るのかと思ったのに。
 とにかく、王さま!
 王さまが一言ツッこんでくれればオチるんです!
 ・・・まぁ、ツッこまなくても落ちるんですけど。)

大臣
「仕立て屋。」

王さま(心の声)
(大臣?まさか大臣が助け舟を?)

大臣
「もう十分縛ったでしょう。さぁ、行きましょう!」

王さま(心の声)
(鬼だ!鬼がいる!
 今までずっと大臣だと思ってたけど、
 あれ大臣じゃない!鬼だ!)

大臣
「では、皆のもの!カウントダウン!」

国民たち
「5・・・!4・・・!3・・・!2・・・!1・・・!」

王さま(心の声)
(もうダメだ・・・っ!!)

子ども
「ねぇー!おうさま、足にゴムなんかつけてないじゃんー!!」

王さま
「っ?!」

王さま(心の声)
(子どもーー!!
 ナイス子ども!
 そうだよ、やっぱ子どもなんだよ!
 お前には祭りが終わったら大臣のポストを与える!
 今の大臣は鬼に降格!)

子どもの母
「こら!はるき!
 王さまに何てこと言うの!」

王さま
「え?」

子どもの母
「ごめんなさい!
 この子の勘違いです!
 ゴムは見えます!続けてください!」

王さま(心の声)
(なんで?!
 なんで親が訂正するの!
 子供を信じてあげなさいよ!
 お前も祭りが終わったら、大臣と一緒に鬼に降格!)

子どもの母(心の声)
(あぶないあぶない。
 あたしにはゴムは見えないけど、
 はるきまでゴムが見えないなんて言ったら、
 明日からママ友たちに何て言われるか・・・。)

大臣
「王さま、行きますか!」

王さま
「ちょっと、もう一度コンセントレーションを・・・。」

王さま(心の声)
(・・・今さらなんだけどさ、
 なんで野菜や穀物が不作だと王さまが吊り橋から飛ぶの?
 何かの罰?
 『すみませんでしたぁーーーっ!!』って叫びながら飛べばいいの?)

管理人
「(やってくる)ちょっとー。
 まだ吊り橋通行規制しないといけないわけ?」

大臣
「あ、橋の管理人さん。
 もうちょっとですので。」

管理人
「飛ぶんなら早く飛んで。
 吊り橋の通行規制もそんなに長くできないから。」

王さま(心の声)
(お前はなんだ。
 王の命より吊り橋の混雑緩和が優先か!)

大臣
「王さま!
 もうコンセントレーションとかいいでしょ?
 行きますよ!」

王さま(心の声)
(なんだ、この国!
 なんだ、このしきたり!
 なんだ、この状況!)

国民たち
「5・・・!4・・・!3・・・!2・・・!1・・・!」

仕立て屋
「あ、雨・・・!」

王さま
「あ、雨だ。
 雨じゃ仕方ない。飛べない。」

仕立て屋
「うん。そうですよ。
 雨じゃ飛べない(王のゴムを外すマイムをする)。」

王さま
「大臣。中止で。
 雨だから。」

大臣
「でも、頬に触れる程度・・・。」

王さま
「(小声で)・・・もうわかってるでしょ。
 景気付けうんぬん言ってる場合じゃなくなるから。」

大臣
「やめますか。」

管理人
「おい、なんだよ!飛ばねぇのかよ!」

大臣
「もう規制解除していいです(帰って行く)。」

王さま
「雨じゃなぁ・・・(帰って行く)。」

仕立て屋
「仕方ないですよねぇ・・・(帰って行く)。」

管理人
「(一人吊り橋に残されて)何だよ、アレだけ時間かけたくせに・・・。」

 

 

(管理人、地面に落ちているものを拾い上げて)

 

 

管理人

「(王さまたちに向かって)おーい、ゴム忘れてるよー!」

 

 

 

 

【コント・セルフ・ライナーノーツ】

2023年5月27日公開のコント。

2023年に作った中で一番好きかもしれません。
 
会話の応酬ではなく、心の中の言葉が中心。
1つ1つのセリフが長いので読むコントというより実演向きです。