今回のお題はよるちゃんからです。
僕の弟です。
ありがとう、弟よ!
(重い扉の閉まる音)
看守
「んー・・・。(独房に鍵をかけつつ、首をかしげている)」
先輩
「(やってくる)おつかれ。」
看守
「あ、お疲れ様です。」
先輩
「囚人37番は?」
看守
「今、今朝の食事が終わったところです。」
先輩
「了解。
あー・・・、お腹空いた。」
看守
「食事取ってないんですか?」
先輩
「ちょっと立て込んでて。
(机の上を見て)あれ、マカデミアナッツ。食べていい?」
看守
「あぁ、どうぞ。」
先輩
「糖分を取らないと、頭が回らない・・・。」
看守
「んー・・・。(独房の扉を見て首をかしげる)」
先輩
「(マカデミアナッツを食べながら)・・・どうした?」
看守
「いや、(独房を指して)37番なんですけど。」
先輩
「あぁ。」
看守
「・・・ここって独房ですよね。」
先輩
「独房だよ。」
看守
「1つ気になることがあるんです。」
先輩
「・・・なんだ。」
看守
「37番なんですけど・・・。」
先輩
「あぁ。」
看守
「日に日に・・・。」
先輩
「うん。」
看守
「日焼けしてるみたいなんです。」
先輩
「・・・。」
看守
「・・・。」
先輩
「・・・またまた。」
看守
「いや、ホントに。」
先輩
「日焼けするわけないだろ、独房なんだから。」
看守
「いや、そうなんですけど、
先日、3年くらい前の37番の写真を見せてもらったんです。」
先輩
「あぁ。」
看守
「そしたら、『体調大丈夫?』って思うくらい白くて。」
先輩
「今は?」
看守
「健康的です。小麦色。」
先輩
「いや、陽の当たり方でそう見えただけじゃないのか?」
看守
「あれは光の関係じゃないです。
僕、思ったんですけど。」
先輩
「何だ?」
看守
「37番、独房から外に出てないですかね?」
先輩
「いや、出れるわけないだろ。
頑丈な扉には鍵がかかっていて、看守が交代で見張っているし。」
看守
「穴ですよ。」
先輩
「穴?」
看守
「ハワイまで続く穴を掘ったんです。
そして、その穴はもう開通してる。
その穴を通って、37番は毎日ハワイに行ってるんです。」
先輩
「いやいやいや。
何でよりによってハワイ?
知ってる?ハワイって遠いんだよ。
毎日徒歩で行ける距離じゃないんだ。ましてや穴で。」
看守
「ちなみに先輩が食べてるマカデミアナッツ、37番からもらいました。」
先輩
「え、そうなの?!」
37番
「(扉の向こうから)♪ハァ~、テレビもねぇ!ラジオもねぇ!」
先輩
「なんだ、突然?!」
看守
「37番、いつもこうして好きな歌を歌ってるんです。」
先輩
「『テレビもねぇ!ラジオもねぇ!』って、そりゃないだろ。独房なんだから。」
看守
「この歌は特にお気に入りみたいで、よく歌ってますね。」
先輩
「37番の18番か。」
37番
「♪車もそれほど走ってねぇ!」
先輩
「いや、走ってないよ。独房なんだから。」
看守
「でも、『それほど』って言ってますから。ちょっとは走ってるんですよ。
だから、車で行ってるんですよ、ハワイ。」
先輩
「車だったとしてもだよ。
遠いんだよハワイ、キミが思ってる以上に。」
37番
「♪俺らこんな村いやだー、俺らこんな村いやだー(だんだん声が小さくなっていく)」
先輩
「ん?声が遠くなってきたな。」
看守
「ホラ!今、向かったんですよ、ハワイ!
『こんな村イヤだ』って言いながら!」
先輩
「いや、寝落ちか何かだろ?
そもそも『こんな村』って何?」
看守
「ハワイに警察を待機させましょう。
『今、そっちに一人行きました』って。」
先輩
「言えるか!
『独房からハワイに穴がつながってまして・・・』なんて!」
看守
「でも、この仮説が本当だとしたら、全ての辻褄が合います!」
先輩
「いや、その仮説には大きな穴があるから。」
看守
「ありますよ、ハワイまでつながってるやつ。」
先輩
「あ、違う。そういう意味じゃない。」
37番
「(扉の向こうから)♪オマワリ毎日ぐーるぐる!」
看守
「あ、帰ってきた!」
先輩
「いや、このスピードでハワイに行って帰ってくるって、マッハ出てるからね。」
看守
「コイツはマッハ出すんです。」
先輩
「世界陸上出れるわ!!
織田裕二に『スゲェよ、37番!』って言われるわ!」
37番
「(扉の向こうから)看守さん!看守さん!!」
看守
「ん?」
37番
「(穴から箱が出てくる)おすそわけです。」
看守
「あ、あぁ。
(箱を受け取り)ほら、マカデミアナッツですよ、先輩!」
先輩
「いやいやいや、ハワイ行ってるってこと?」
看守
「他にマカデミアナッツの入手方法ないじゃないですか!」
先輩
「確かにそうだけど・・・。」
看守
「あ、ところで『37番の18番』ってどういう意味ですか?」
先輩
「いいよ、忘れた頃に蒸し返さなくて!」
看守
「多分、ヤツは脱獄してますよ。
犯人という意味でも、日焼けという意味でもヤツはクロです。」
37番
「(扉の向こうから)♪ハァ~!テレビもねぇ!ラジオもねぇ!」
先輩
「また歌い出した!」
看守
「きっとまた出かけますよ!」
37番
「♪俺らこんな村イヤだー。俺らこんな村イヤだー。(だんだん声が小さくなっていく)」
看守
「ハワイに行きましたね。」
先輩
「今、独房の中は空っぽってこと?」
看守
「僕の仮説が正しければ。」
先輩
「のぞいてみる?」
看守
「そうですね。
(扉をノックする)37番。37番、いるか?
開けるぞ。(独房に入っていく)」
先輩
「(独房の外から)どうだ?」
看守
(出てくる)
先輩
「・・・どうだった?」
看守
「いませんでした。
代わりにこれが残ってました(紙きれを渡す)。」
先輩
「これは・・・?」
看守
「全日空の航空券です。」
先輩
「飛行機でハワイに行ったってことか!
穴じゃなくて!」
看守
「まぁ、ANAですけど。」
日焼けというお題をもらった時点で「独房にいるけど日焼けしてる」という設定はまず出たのですが、そこから広がらず、一旦、別の設定を考えてました。
しかし、そちらもなかなか広がらず、あらためて独房の設定でアイディア出しをした結果、いろいろ展開を思いつき、ようやく形にすることができました。
ラストは「犯人という意味でも日焼けという意味でもクロ」で落とす予定でしたが、公開直前に飛行機の話題を聞き、穴⇒ANAのアイディアを思いついたので、直前で差し替えました。
人数:3人
看守
先輩
37番
所要時間:4分~5分
上演難易度:★★☆☆☆
備考:舞台の真ん中に扉を用意し、その扉の前で2人の看守が話をする想定で書きました。
37番は声だけが聞こえてくるイメージです。
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