医者
(病室に入ってくる。)


女性看護師
(医者の後ろについて入ってくる。)


患者
「あ、先生!」


医者
「どうですか、調子の方は?」


患者

「はい。おかげさまで。」


医者

「記憶の方はどうですか?

 自分が誰か、思い出しました?」


患者
「はい!
 今朝、自分の名前を思い出しました!」


医者
「おぉ。本当ですか?」


患者
「はい。」


医者
「では、伺いましょう。
 あなたのお名前は?」


患者
「多岐川です。
 多岐川博人。
 今朝、思い出したんです。」


医者
「そうですか。」


患者
「あと、誕生日も思い出しました。
 1986年10月4日。
 今、28歳です。」


医者
「ほうほう。」


患者
「住んでいる場所は横浜で、
 8階建てのマンションの7階、角部屋に住んでいます。」


医者
「なるほど。
 いいですか。
 落ち着いて聞いてください。」


患者
「はい。」


医者
「・・・あなたが今言った内容、
 全部、私のプロフィールです。」


患者
「・・・はい?」


医者
「私が多岐川博人です。
 1986年10月4日生まれ。
 横浜在住。
 全部、私のプロフィールです。
 なんで私の住んでるところまであなた知ってるんですか!」


患者
「いや・・・思い出したんです。」


医者

「思い出せるわけないでしょ!
 8階建てマンションの7階角部屋っていいましたね。
 当たってます。
 当たってますけど、なんか怖いっ!!」


患者
「じゃあ、由美子という妻と2才になる雄大という息子がいるというのは・・・」


医者
「それ、私の家族です!
 何をしれっと、わたしのプロフィールを奪ってるんですか!!」


患者
「城北大学医学部卒業・・・」


医者
「私の学歴です!!」


患者
「大学時代はマジックの実演販売のバイトをしてました。」


医者
「私のバイトの経歴です!!
 え?何、私のストーカーですか!?
 怖い怖い怖いっ!!」


女性看護師
「多岐川先生、落ち着いてください。」


医者
「あぁ、ありがとう・・・。」


患者
「あ!」


医者
「なんですか?」


患者
「本当の名前、思い出しました。」


医者
「本当ですか?あなたの名前は?」


患者
「垣内夏美です。」


女性看護師
「それ、わたしの名前です。」


患者
「違うかぁ・・・」


医者
「夏美って時点で違うってわかるでしょ?」


患者
「1988年12月28日生まれ。」


女性看護師
「それ、わたしの誕生日。」


患者
「川崎に住んでます。」


女性看護師
「だから、それもわたしです。」


患者
「今、ちょっと多岐川先生のことが気になってます。」


医者
「・・・え?」


女性看護師
「バっ!!ちょっと余計なこと言わないでください!!
 なんでもないです。なんでも・・・」


患者
「あ、また思い出しました!」


医者
「今度は何・・・?」


患者
「さっき、妻と息子がいるって言ったんですけど、
 実は夫婦仲はもう冷え切っていて、離婚間近です。」


医者
「だから、それ私の家庭の事情!!」


女性看護師
「そうなんですか・・・?」


医者
「いや、まぁ・・・そうだけど。」


女性看護師
「よしっ!!(小さくガッツポーズ)」


医者
「何が『よしっ!』なの?」


患者
「また思い出しました!」


医者
「今度はなんですか?」


患者
「多岐川先生の好きなところはマジックが上手なところで、
 5年前にマジックの実演販売をしている姿を見て好きになりました。
 一目ぼれです。」


女性看護師
「また私の話!」


医者
「5年前・・・」


女性看護師
「覚えてないですよね、5年も前だし・・・。」


患者
「覚えてますよ。」


女性看護師
「・・・え?」


患者
「マジックの実演販売をしているとき、
 遠くに離れて僕のマジックを見てるカワイイ子がいるなぁって。」


女性看護師
「本当ですか!?」


患者
「しっかり覚えてます。」


医者
「それ全部、私のセリフ!!」


患者
「あ、すみません・・・」


医者
「あなたはまず、自分の名前を思い出して!!」


患者
「寺崎竜三じゃないですか?」


医者
「それ、うちの病院の副院長です!!」


患者
「岩田健吾は?」


医者
「それ、あなたの前にこの病室に入院していた患者さん!!」


患者
「高須克弥!!」


医者
「それ、高須クリニックの院長!!」


患者
「織田信長!!」


医者
「武将!!」


患者
「大西賢示!!」


医者
「はるな愛の本名!」


患者
「高須克弥!!」


医者
「二度目!!」


患者
「もう思い出せません!!」


医者
「無理して思い出す必要はないです!
 ゆっくり思い出してください!」


女性看護師
「あの・・・先生!!」


医者
「ん?!」


女性看護師
「あの・・・今日、仕事が終わったら・・・
 あの・・・あの・・・ご飯一緒に食べませんか?」


医者
「・・・いいですよ。」


女性看護師
「本当ですか!!ありがとうございます!(部屋を出ていく)」


医者
「・・・。」


患者
「あ!思い出した!」


医者
「なんですか?」


患者
「妻と別れようと決心しました。」


医者
「もう思い出さなくていいです!!」




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半年後
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医者
(病室に入ってくる。)


女性看護師
(医者の後ろについて入ってくる。)


患者
「あ、先生!」


医者
「今日は誰のプロフィールを思い出しましたか?」


患者
「またハズれるみたいな言い方しないでください!
 今日こそ私のプロフィールです!」


医者
「自信があるみたいですね。」


患者
「はい。自信ありです。」


医者
「それでは伺いましょう。
 あなたのお名前は?」


患者
「・・・鈴木雅之。」


医者
「違う、そうじゃない。」


患者
「曲名で否定された~!」


医者
「ところで、あなたに報告があります。」


患者
「報告?」


医者
「この度、再婚します!」


患者
「再婚?!おめでとうございます!
 ・・・で、誰と?」


女性看護師
「あの・・・私です。」


患者
「おー!」


女性看護師
「あなたに背中を押してもらう形になりました。」


医者
「で、あなたに婚姻届の保証人になってもらおうと思って。」


患者
「あ、いいですよ。」


医者
「(婚姻届を取り出す)じゃ、ここにサインと押印を。」


患者
「はいはい。(婚姻届とペンを受け取る)」


女性看護師
「引き受けてもらえてよかったー。」


患者
「えーと・・・(婚姻届を前に書く手が止まる。)」


女性看護師
「・・・ん?」


医者
「どうしました?」


患者
「・・・自分の名前が思い出せねぇんだよっ!!」









【コント・セルフ・ライナーノーツ】

記憶喪失の人間がどんどん別の人の記憶を思い出していく・・・という発想から、

こんなコントになりました。


ラストはきれいにオチたかなと思います。

でも若干、落語的なオチ・・・。