ウィリアム・テル
「ただいま。」



「おかえりなさい。夕飯の準備できてるけど、食べる?」


ウィリアム・テル
「いや、今はいい。
 ところで、ヴァルター(息子)は帰ってるか?」



「2階にいるわよ。
 ヴァルターになにか用事?」


ウィリアム・テル
「ちょっと話があってな。」



「あら、そう。
 連れて来ましょうか?」


ウィリアム・テル
「あぁ、頼むよ。」



「(2階に上る)ヴァルター、お父さんが話があるって。」


ヴァルター
「(2階から)うっせぇな!
 これから出かけるんだよ!」


ウィリアム・テル
「(2階に向かって)ヴァルター!
 大事な用があるんだ。父さんの話を聞きなさい。」


ヴァルター
「(降りてくる)うっせぇな・・・
 なんだよ、話って。
 悪いけど、手短に済ませてくれよ。
 これからダチと集会なんだよ。(椅子に座る)」


ウィリアム・テル
「ヴァルター。
 (プチトマトを取り出す)ちょっとこれを頭に乗せてみてくれ。」


ヴァルター
「なんだよ、突然。(プチトマトを頭の上に乗せる)」


ウィリアム・テル
「どうだ、そのまま5分くらいプチトマトを乗せて立っていられるか?」


ヴァルター
「バカにすんじゃねぇよ。
 これくらい朝飯前に決まってんだろ。」


ウィリアム・テル
「よし!なら話は早い。
 明日、お前はそんな感じでプチトマトを乗せて立っていてくれ。
 父さん、そのプチトマトを撃ちぬくから。
 よし、話は終わり!」


ヴァルター
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て!」


ウィリアム・テル
「母さん、話は終わった。
 夕食の準備だ。」


ヴァルター
「待て!待って!!
 待ってっつってんだろ、オヤジ!!」


ウィリアム・テル
「なんだ、これから夕食だっていうのに・・・。」


ヴァルター
「さらっと、スゴイこと言ったな、今!
 ゆっくりと全部説明してくれ!!」


ウィリアム・テル
「なんだ、どこがわからない?」


ヴァルター
「どこがっていうか、全部わかんねぇよ!
 なんでオレが頭にプチトマト乗せて、
 親父がそのプチトマトを撃ちぬくんだよ!!

 オレ命がけじゃねぇか!!」


ウィリアム・テル
「全部わかんねぇってか。
 まぁ、アレだ。
 広場でゲスラーっていう役人を『なんやかんや』で怒らせちゃったんだ。
 で、息子の頭の上に乗せたプチトマトを撃ちぬいたら、許してもらえることになったってわけだ。
 よし、説明終わり!
 母さん、夕飯にしよう!」


ヴァルター
「だから、待てよ!!
 なんだよ、なんやかんやって!
 で、親父がプチトマトを射抜けば許してもらえるようになった過程がわからねぇよ!」


ウィリアム・テル
「まぁアレだよ。
 父さん、ゲスラーって役人を怒らせちゃったから、
 『オレ、射撃が得意なんで、息子の頭の上のリンゴ、矢で撃ち落としてやりますよ』
 って言ったら、ゲスラーが喜んじゃってな。」


ヴァルター
「なんで、そこでオレを出すんだよ。
 しかも、頭の上に乗せるのリンゴじゃん。
 なんで、リンゴがプチトマトになってるんだよ。」


ウィリアム・テル
「いや、それがね。
 ゲスラーとそのあと飲みに行ったんだけどさ・・・」


ヴァルター
「もうすっかり打ち解けてるじゃん。」


ウィリアム・テル
「ゲスラーが『リンゴだったらオレだってできる』って言ったもんだから、
 父さん、なめられちゃいけないと思って、『トマトでもできますよ。』って返したんだ。
 そしたらゲスラーがサラダに乗ってたプチトマトを見て、
 『プチトマトでもいける?』って言うから、
 父さん、酔った勢いで『できまぁす!!』って。」


ヴァルター
「ふざけんなよ!
 リンゴでもできるかどうかわかんねぇのに、
 なに酔った勢いで的を小さくしてんだよ!」


ウィリアム・テル
「あとは、父さん、明日までにアルコールが抜けるかどうかが問題だな。
 二日酔いが怖い。」


ヴァルター
「もう絶対ムリだよ!
 シラフでもできるかどうかわかんねぇのに、
 酔っ払いが息子の頭の上にあるプチトマトを撃てるわけねぇよ!!」


ウィリアム・テル
「あ、母さん。あとで倉庫にある大砲を出しておいてくれ。
 明日使うから。」


ヴァルター
「ん?大砲?
 何に使うんだよ。」


ウィリアム・テル
「明日、お前の頭の上のプチトマトを撃ちぬくのに使うんだよ。」


ヴァルター
「はぁ?!矢で射るんじゃねぇのかよ!!」


ウィリアム・テル
「アレ、言ってなかったっけ?
 都合で矢が大砲に変わったんだよ。」


ヴァルター
「聞いてねぇよ!!
 なんだよ、都合って!」


ウィリアム・テル
「ゲスラーと居酒屋をはしごしているときの話なんだけどさ・・・」


ヴァルター
「もうゲスラーとすっかり飲み友達じゃん!!
 ちょっと話せば『なんやかんや』を許してもらえるんじゃないの?!」


ウィリアム・テル
「ゲスラーが『ウィリアムは矢の名手なんだろ?矢で撃てるのは当然だよ』って言ったから
 父さん、『ピストルも得意ですよ。』って言ったんだ。
 そしたらゲスラーが『大砲で撃てって言ったら無理だよね?』っていうから
 父さんは『大砲もできまぁす!!』って。」


ヴァルター
「だから、なんでゲスラーの誘いに乗っちゃうの?」


ウィリアム・テル
「父さん、ゲスラーの言うことだったら、なんでもできちゃう気がするんだよね。」


ヴァルター
「気のせいだよ!
 気のせいであり、アルコールのせいだよ!
 うわ、もうこんな時間!集会行かねぇと!!」


ウィリアム・テル
「何時ごろ帰るんだ?」


ヴァルター
「知らねぇよ!
 これから夜通し走るんだよ。(出かける)」


ウィリアム・テル
「ゲスラーとの約束は午前7時開始だから、
 それまでには帰ってこいよ。」


ヴァルター
「(戻ってくる)朝7時ってなんだよ!!
 親父、絶対起きられねぇだろ!!」


ウィリアム・テル
「父さん、明日寝ぼけてるかも知れない。
 失敗したらゴメンね。」


ヴァルター
「『ゴメンね』じゃねぇよ!!
 プチトマトを頭に乗せた息子を大砲で撃ちぬいといて、『ゴメンね』じゃねぇよ!!」


着信音
(ウィリアム・テル序曲)


ウィリアム・テル
「(電話に出る)もしもし。
 あー、ゲスラーさん。さきほどはどうも。
 あ、大砲とプチトマトの距離をまだ決めてなかったですね。
 どのくらいが妥当なんですかね。500mくらいでしょうか。」


ヴァルター
「絶対当たんねぇよ。」


ウィリアム・テル
「1000mでも行けますよ。
 ・・・え?
 ・・・できまぁす!!」


ヴァルター
「あ、またゲスラーの口車に乗った!」


ウィリアム・テル
「(電話を切る)大砲とプチトマトの距離が決まった。」


ヴァルター
「聞くのが怖ぇよ・・・。何m?」


ウィリアム・テル
「ゲスラーとの細かい調整の結果、
 大砲とプチトマトの距離は1mに決まった。」


ヴァルター
「お前バカじゃないの?!
 プチトマトを頭に乗せたオレの目の前に大砲があるってことだろ?!
 公開処刑じゃん!!」


ウィリアム・テル
「すべてはワタシとゲスラーが酔った勢いで決めたことだ。
 誰にも文句は言わせない。」


ヴァルター
「お前とゲスラーの間のその固い絆なんなんだよ!
 親子以上に固い絆だな!!」


ウィリアム・テル
「大丈夫だ!父さんの矢のウデは知ってるだろ?」


ヴァルター
「矢のウデは知ってるけど、大砲のウデは知らないよ!」


ウィリアム・テル
「ほら!最後の集会に行って来い!」


ヴァルター
「ほら、もう『最後の』って言っちゃってるし!(出かける)」


ウィリアム・テル
「スタンバイの時間とかあるから、6時には帰ってくるんだぞ!」








そして翌朝。



ウィリアム・テルによる息子・ヴァルターの命をかけた挑戦は、
『なんやかんや』で成功した









【コント・セルフ・ライナーノーツ】

ウィリアム・テルは息子をどうやって説得したんだろう、という考えから広げたコントです。

絶対、こんな展開になったと思うんです。