むかしむかし、町にたきぎを売りにいった帰り道、
ワナにかかったツルを見かけたおじいさんは
ワナを外してあげました。



おじいさん
「ただいま。」


おばあさん
「おかえりなさい、おじいさん。
 たきぎは売れましたか?」


おじいさん
「いや、売れんかった。」


おばあさん
「そうですか・・・。」


おじいさん
「そういえば、帰りにワナにかかったツルを見つけたので、
 ワナを外してやったんじゃ。」


おばあさん
「それはいいことをしましたね。
 さぁ、今日はゆっくり寝ましょう。」



(その夜)



戸を叩く音
「トントントントン・・・」


おじいさん
「なんじゃ?」


おばあさん
「どうしました?」


おじいさん
「誰かが戸を叩く音が聞こえたんじゃ。」


戸を叩く音
「トントントントン・・・」


おばあさん
「本当ですね。」


おじいさん
「もしかして、さっきのツルが恩返しに来たのかな?」


おばあさん
「そうかもしれませんね。
 開けてみましょう。(戸を開ける。)」


レポーター
「(撮影クルーと一緒に入ってくる)こんばんはー!
 『奥様お台所チャレンジ』でーす!
 突然ですが、奥様、お台所はどちらでしょう?」


おばあさん
「あ・・・こちらですけど・・・」


レポーター
「お、こちらの洗剤をお使いで!
 なるほどー!
 しかし、こちらの洗剤、油汚れって落ちますか?」


おばあさん
「いや、結構落ちにくいですねぇ。」


レポーター
「例えばこれ!(スタッフからボウルを渡される)
 ボウルに付着したハンバーグの汚れ!」


おばあさん
「いや、これは落ちないです。」


レポーター
「そうでしょうそうでしょう!
 ところがこちらの洗剤『ダイナミックアルファ』!
 こちらを使ってこのボウルを軽くこすってください!」


おばあさん
「(軽くスポンジでこする)あ!すごい!!
 こんなにキレイに!!」


レポーター
「いかがです!このパワー!!
 (カメラ目線で)『奥様お台所チャレンジ』!!
 次はあなたのお宅にお邪魔します!!」


ディレクター
「はい、OK!!」


おじいさん
「・・・一部始終を見てしまったのじゃが、あなたたち、何じゃ?」


レポーター
「すみません。このあたりの奥様にこちらの洗剤を使っていただき、
 そのリアクションを撮影するというCMを撮ってまして。」


おじいさん
「いきなりなんでびっくりしてしまったよ。
 一言も口出しできなかったし。」


レポーター
「申し訳ないです。
 こちら、記念品の洗剤詰め合わせです。」


おばあさん
「まぁ、こんなに。」


おじいさん
「すまんが、この後、ツルが恩返しに来る予定なんで、
 CMを撮っている場合じゃないんじゃ。」


レポーター
「お取込み中のところをすみません。」


ディレクター
「次は3軒隣りの高橋さんですね。」


レポーター
「わかりました。
 それでは、次があるんで、ここで失礼します。」


おばあさん
「はい、ご苦労さまです。(戸を閉める)」


おじいさん
「このタイミングで紛らわしい・・・」


おばあさん
「さて、寝ましょうか。」



(数時間後)



戸を叩く音
「トントントントン・・・」


おじいさん
「お、今度こそ来たんじゃないか?恩返し!!」


おばあさん
「そうかも知れませんね。」


戸を叩く音
「トントントントン・・・」


おばあさん
「はいはい、今開けますよ。(戸を開ける。)」


レポーター

「(撮影クルーと一緒に入ってくる)こんばんはー!
 『奥様お台所チャレンジ』でーす!
 突然ですが、奥様、お台所はどちらでしょう?」


おじいさん
「いや、さっきも来たじゃろ、あんたたち!」


おばあさん
「こっちですけど・・・」


おじいさん
「ばあさんも案内しなくていいよ。」


レポーター
「お、こちらの洗剤をお使いで!
 なるほどー!
 しかし、こちらの洗剤、油汚れって落ちますか?」


おじいさん
「見た。さっき見た。
 このやりとり、さっき見た。」


おばあさん
「いや、結構落ちにくいですねぇ。」


おじいさん
「ばあさんもさっきとまったく同じリアクションだし!」


レポーター
「例えばこれ!(スタッフからボウルを渡される)
 ボウルに付着したハンバーグの汚れ!」


おばあさん
「いや、これは落ちないです。」


おじいさん
「デジャヴか?これはデジャヴか?!」


レポーター
「そうでしょうそうでしょう!
 ところがこちらの洗剤『ダイナミックアルファ』!
 こちらを使ってこのボウルを軽くこすってください!」


おばあさん
「(軽くスポンジでこする)あ!すごい!!
 こんなにキレイに!!」


おじいさん
「なんでそんなに新鮮なリアクションができるんじゃ!」


レポーター
「いかがです!このパワー!!
 (カメラ目線で)『奥様お台所チャレンジ』!!
 次はあなたのお宅にお邪魔します!!」


おじいさん
「なんでワシを無視して進行するんじゃ!
 みんなにはワシが見えておらんのか?!」


ディレクター
「はい、OK!!」


おじいさん
「何度も言うが、さっき来たじゃろ、あんたたち!」


レポーター
「すみません。近くに家が少なくて、テイク2の収録に来ました。」


ディレクター
「2本目の方がよかったな。」


おじいさん
「いや、2本目はところどころワシのツッコミが入ってるぞ!」


レポーター
「こちら記念品になります。(おばあさんに渡す)」


おばあさん
「まぁ、こんなに。
 おじいさん。こんなに洗剤もらっちゃいました。」


おじいさん
「うん、知ってる。
 よく落ちる洗剤なんだよね。」


ディレクター
「次は3軒隣りの高橋さんですね。」


おじいさん
「高橋さんとこにもテイク2行くのか?!」


レポーター
「それでは失礼します!」


おばあさん
「(戸を閉める)いやぁ、よく落ちる洗剤ですね。
 驚いちゃいました。」


おじいさん
「なんでテイク2なのにびっくりできるんじゃ?
 それとも、ワシのリアクションの方が間違いなのか・・・?
 あと、何故ツルは来ないんじゃ?」


おばあさん
「おじいさんが助けてあげたのは、実はツルじゃなくて
 『奥様お台所チャレンジ』のクルーだったってことはないですか?」


おじいさん
「いや、あれはツルじゃった!!
 ツルと『奥様お台所チャレンジ』のクルーを間違えるわけがないじゃろう。
 さ、ツルが来るから早く寝ることにしよう。」


おばあさん
「そうですね。」



(数時間後)



戸を叩く音
「トントントントン・・・」


おばあさん
「誰か来たようですね。(戸を開けようとする)」


おじいさん
「待った!また、『奥様お台所チャレンジ』のクルーかもしれん。
 ワシが確認する。(戸ののぞき穴を見る)」


おばあさん
「どうですか?」


おじいさん
「若い娘さんじゃ。今度こそ来たぞ!(扉を開ける)」


若い娘
「あの・・・夜分遅くすみません・・・」


おじいさん
「いいんじゃ、いいんじゃ。
 待っておったぞ。
 さ、さ、中に入りなさい。」


若い娘
「失礼します。」


おばあさん
「こんな夜遅くに・・・
 寒かったでしょう・・・?」


若い娘
「はい。ところでおばあさん。
 お台所を借りてもいいですか?」


おばあさん
「はい。いいですよ。」


おじいさん
「お、さっそく、何か作ってくれるのかな。」


若い娘
「あ、洗いもの溜まってますね。」


おばあさん
「ごめんなさいね、いろいろ忙しかったもので。」


若い娘
「わたし、洗いますね。」


おばあさん
「すみませんね。」


若い娘
「(CMクルーが置いていった洗剤を見る)
 あ、この洗剤・・・。
 おばあさん、この洗剤、使っていいですか?」


おばあさん
「あぁ、もらいものですが、どうぞどうぞ。」


若い娘
「すごーい!油汚れがよく落ちる!」


おばあさん
「そうなんじゃ。その洗剤、すごいじゃろ?!」


若い娘
「(戸に向かって歩きながら)
 『奥様お台所チャレンジ』!!
 次はあなたのお宅にお邪魔します!!
 (戸を勢いよく開ける)」



(戸の前にはCMクルーがカメラを向けている)



ディレクター
「はい、OK!!」


おじいさん
「OKじゃない!!
 娘さん、レポーターか!!」


若い娘
「テイク3になると、新しい画も期待できないので、
 ドキュメンタリータッチにしてみました。」


ディレクター
「よかったよー。自然な感じが出てた。」


若い娘
「ありがとうございます!!」


おじいさん
「帰れ!!
 このあと、ツルが恩返しに来るんじゃ!!
 帰ってくれ!!(クルーを追い出す)」


ディレクター
「あ、こちら記念品です!(洗剤を渡す)」


おばあさん
「ありがとうございます!」


おじいさん
「もうたくさんもらったから大丈夫じゃ!!(戸を閉める)」


おばあさん
「おじいさん、見てください!
 こんなに洗剤もらっちゃいました。」


おじいさん
「もう洗剤なんかキライじゃ!
 ツルが来るから寝る!!」


おばあさん
「そうですね。」


戸を叩く音
「トントントントン・・・」


おじいさん
「また来やがった!!(戸を開ける)」


美しい娘
「(戸の前に立っている)
 あの・・・夜分遅くすみませんが・・・」


おじいさん
「洗剤なんかいらん!!
 帰ってくれ!もう、帰ってくれ!!(美しい娘を追い出す)」


美しい娘
「ちょっと!追い出さないでください!!」


おじいさん
「(涙声で)洗剤も油汚れもキライじゃ!!」


美しい娘
「(追い出されながら)ちょっと待ってください!!
 わかりました!言います!言います!!
 ツルです!あのときのツルです!!」




その後、誤解は解け、娘さんは家に入れてもらえました。


数時間後、『奥様お台所チャレンジ』のCMクルーがテイク4を撮影。
おばあさんと美人の奥様が洗い物をしている姿が微笑ましいと、評判も上々。
ところどころ入るおじいさんのツッコミもキレがあっていいと好評でした。


後日、おじいさんの家にお礼として、洗剤1年分が届きましたとさ。



めでたし、めでたし。








【コント・セルフ・ライナーノーツ】

チャレンジジョイのCMを見て、『最悪なタイミングでやってくるチャレンジジョイ』というのを考えてこの設定にしました。

娘が追い出されて終わりだと、なんか後味悪いので、ラストのト書きで強引にハッピーエンドにしてます。


レポーター役は僕の頭の中で勝手に南海キャンディーズの山ちゃんが浮かびます。

「どーもー!!」って入ってくるだけで、なんか面白い・・・




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