新年に食べるおもちを買うため、
おじいさんは町に笠を売りに行きました。
しかし、１日かけても笠は売れません。
帰り道、おじいさんは寒そうにしている５つのお地蔵さんに笠をかけ、
残った１つのお地蔵さんには自分の身につけている手ぬぐいをかけてあげました。
おじいさん
「ただいま。」
おばあさん
「おや、おじいさん。笠は売れたのですか？」
おじいさん
「いや、売れんかった。
帰り道に寒そうにしてるお地蔵さんがいてな、笠をつけてやったんじゃ。」
おばあさん
「そうですか。
それはいいことをしましたね。
きょうはゆっくり休みましょう。」
おじいさん
「そうじゃな。」
おばあさん
（横になる）
おじいさん
（横になる）
声
「（遠くから）・・・おれいをとどけにきたぞ・・・」
おじいさん
「・・・ん？」
おばあさん
「どうしました、おじいさん？」
おじいさん
「いや、何か聞こえないかい？」
声
「（遠くから）♪じいさまのおうちはどこだ？
かさのおれいをとどけにきたぞ。」
おばあさん
「確かに聞こえますね。」
おじいさん
「うむ。聞こえるじゃろ？」
声
「（近づいてくる）♪じいさまのおうちはどこだ？
かさのおれいをとどけにきたぞ。」
おばあさん
「声が近づいてきましたよ。」
おじいさん
「うむ。こっちに向かってきているようじゃな。」
声
「（更に近づいてくる）♪じいさまのおうちはどこだ？
かさのおれいをとどけにきたぞ。」
おばあさん
「笠のお礼を届けにきたって言ってますよ？」
おじいさん
「まさか、あのときのお地蔵さま・・・？」
声
「♪じいさまのおうちはどこだ・・・？
かさのおれいをとどけにきたぞ・・・。（通り過ぎる）」
おばあさん
「・・・通り過ぎましたね。」
おじいさん
「地蔵のドップラー効果って初めて聞いたな。
もしかして、迷ってるのかな？
ちょっと外に様子を見に行ってくる。（外に出る）」
おばあさん
「いってらっしゃい。」
おじいさん
「おーい！！ワシの家はここじゃぞー！！（走っていく）」
おばあさん
「（外を見て）風が強くなってきましたね・・・」
おじいさん
「（戻ってくる）ただいま。」
おばあさん
「どうでした？」
おじいさん
「追いかけたんじゃが、想像以上に足が速くてな、逃げられてしまった。
だが、あの後ろ姿は間違いない。あのときのお地蔵さまじゃ。
たぶん、ワシらの家を探すのをあきらめて、元いた場所に帰ったのじゃろう・・・」
おばあさん
「わたしたちの家が見つからなかったのであれば、
名前と地図を描いた紙をお地蔵さまのところに置いておけばいいんじゃないですか？」
おじいさん
「そうじゃな。
ワシ、これから地図を置いてくるから、ばあさんはこの家に表札をつけてくれ。」
おばあさん
「わかりました。」
（１０分後）
おじいさん
「ただいま。」
おばあさん
「おかえりなさい。
お地蔵さま、どうでした？」
おじいさん
「うん。
最初に見たときと若干配置が変わってた。」
おばあさん
「バタバタしてましたからね。
それじゃ、寝ましょうか。
寝ている間にお地蔵さまが来てくれるといいですね。」
おじいさん
「そうじゃな。」
おばあさん
（横になる）
おじいさん
（横になる）
声
「（遠くから）♪・・・杉崎茂三のおうちはどこだ。
かさのおれいをとどけにきたぞ。」
おばあさん
「おじいさん！来ましたよ！！」
おじいさん
「迷わずこの家に届けてくれればいいのじゃが・・・」
声
「（近づいてくる）♪杉崎茂三のおうちはどこだ。
かさのおれいをとどけにきたぞ。
地蔵村３番地・・・地蔵村３番地・・・ここか。」
物音
「ズーーーーーン・・・」
おばあさん
「何の音でしょう・・・？」
おじいさん
「笠のお礼を家の前に置いた音じゃろうか・・・？」
声
「♪おれいをしたぞ、おれいをしたぞ。
わーいわーい！
おれいをしたぞ、おれいをしたぞ。
わーいわーい・・・！（遠ざかっていく）」
おばあさん
「おじいさん！！」
おじいさん
「あぁ！外を確認してみる！！（外を見る。）」
おばあさん
「どうですか？」
おじいさん
「何もない。」
おばあさん
「・・・どういうことです？」
おじいさん
「何も置いてないんじゃ。
お地蔵さまがお礼を届けてくれたんじゃないのか・・・？」
隣人の声
「（隣の家から）きゃー！なにこれ！！」
おばあさん
「どうしたんでしょう？」
おじいさん
「ちょっと見に行ってくる。（外に出る）」
おばあさん
「（外を見る）吹雪いてきましたね・・・」
おじいさん
「（戻ってくる）うーん・・・」
おばあさん
「どうでした？」
おじいさん
「お地蔵さま、住所を間違えたらしい。
お礼は隣の能勢さんの家の玄関先に届いてた。
『それ、ワシの家のものです！』って言おうと思ったんじゃが、
ご近所トラブルになると思い、言うのをヤメた・・・」
おばあさん
「能勢さん、近所でも評判悪いですからね・・・
お地蔵さまに届け先の住所が違うってクレームを入れた方がいいんじゃないですか？」
おじいさん
「そうじゃな。ちょっと行ってくる。（外に出る）」
おばあさん
「いってらっしゃい。」
（１０分後）
おじいさん
「ただいま。」
おばあさん
「おかえりなさい。
どうでした、お地蔵さま。」
おじいさん
「うむ。
最初見たときは横一列に並んでいたんじゃが、
今見たら、縦一列に並んでた。」
おばあさん
「年の瀬ですからね。
お地蔵さまも忙しいのでしょう。」
おじいさん
「届け物が届いていないって話をしたら『今すぐお届けします！』って言われた。
３０分以内に届かなかったら、タダにしてくれるらしい。」
おばあさん
「お金取るつもりなんですね・・・」
おじいさん
「金がないから、笠を売りに行ったんじゃがな・・・」
声
「（遠くから）♪杉崎茂三のおうちはどこだ。
かさのおれいをとどけにきたぞ。」
おばあさん
「あ！今度こそ、来たんじゃないですか！！」
おじいさん
「まだ、油断しない方がいいぞ。
毎回、ここまでは来るんじゃ。」
声
「（近づいてくる）♪杉崎茂三のおうちはどこだ。
かさのおれいをとどけにきたぞ。
どこだ・・・どこだ・・・？」
おばあさん
「探してますね。」
おじいさん
「結構入り組んでるから、わかりにくいかな・・・？」
放送
「ピンポンパンポーン・・・」
おじいさん
「ん？」
おばあさん
「村内放送ですね。」
放送
「村民のみなさまにお知らせします。
ワラの傘をつけ、赤い前掛けをした、３０歳くらいのお地蔵さま５つと
白い手ぬぐいをつけ、赤い前掛けをした、５才くらいのお地蔵さま１つが迷子になっておられます。」
おじいさん
「何をしてるんだ・・・（頭を抱える）」
おばあさん
「早く迎えに行ったほうがいいんじゃないですか？」
放送
「心当たりのある方は地蔵村集会場までお越しください。」
おじいさん
「ちょっと集会場に行ってくる。」
おばあさん
「いってらっしゃい。」
おじいさん
「これも正月を迎えるためじゃ・・・（外にでる）」
おばあさん
「（外を見る）暴風になってきましたね・・・」
（１０分後）
おじいさん
「ただいま。」
おばあさん
「おかえりなさい。
どうでした、お地蔵さま。」
おじいさん
「これをくれた。（包みを渡す）」
おばあさん
「なんですか、これは。」
おじいさん
「本来、お礼として渡そうとしていた豪華な料理や財宝は
能勢さんの家に置いてきてしまったから、もうないらしい。
代わりにこの包みをくれた。」
おばあさん
「（包みを開ける）・・・これは・・・ＣＤ？」
おじいさん
「あのお地蔵さま、プライベートで音楽活動をしていて、
自主制作でＣＤを作ってるらしい。
『今渡せるのはこれくらいしかない』って言って、ワシにくれた。」
おばあさん
「そうなんですか。」
おじいさん
「ワシは『いらない』って言ったんじゃが、
『遠慮なさらずに』って言われてな・・・
遠慮してたワケじゃないのじゃが・・・」
おばあさん
「とりあえず、聞いてみましょう。（ＣＤをセットする）」
プレーヤー
（イントロが流れ始める）
おばあさん
「本格的なイントロですね。」
おじいさん
「意外と当たりなのかな・・・？」
プレーヤー
「♪じいさまのおうちはどこだ？
かさのおれいをとどけにきたぞ・・・」
おじいさん
「・・・止めて。」
おばあさん
「はい。（ＣＤを止める）」
おじいさん
「ばあさん・・・。
新年は質素に迎えることになりそうじゃな。」
おばあさん
「・・・そうですね。
・・・このＣＤどうします？」
おじいさん
「ワシがなんとかしておく・・・」
その後、おじいさんはネットオークションでお地蔵さまの自主製作のＣＤを出品。
しかし、これに意外な高値がつき、おじいさんとおばあさんは無事、新年を迎えることができましたとさ。
めでたし、めでたし。
【コント・セルフ・ライナーノーツ】
「かさじぞうがやってこない」という設定から広げたコントです。
かさじぞうって知名度的にどうなんでしょう・・・？
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