舞台『リップカレント』を観劇

 

 コロナ禍にあり、オリンピック直前の頃を描いた旅行代理店に勤める田畑稔(増澤ノゾム)を中心とした物語。「リップカレント」とは岸から沖へ流れる大きな流速をもつ流れの潮のことをいう。今までとは違う生き方を強いられる世の中になってしまい、この大きな流れにあがらうこともできず、しかしその中で過去に失った大事なものを見つけ、自らの行動を反省し、一歩前へ踏み出す舞台である。

 腹を割って会話ができなくなってしまった妻の菜種(高木珠里)と田畑との関係、心の拠り所を見つけたデリヘリ嬢の姫(江益凛)と田畑との関係、代理店後輩(斉藤マッチェ)と姫との関係、姫と義父(村上航)との関係、彼らが各々集うバーのママ(渡辺梓)と姫との関係。それぞれがぎこちなくつながっているが、互いの本心がぶつかることにより、切れてしまうものもあれば、固く頑丈な関係に発展するものもある。特に田畑と菜種の関係は娘を死産という形で失ってからここ数年、コミュニケーションが取れなくなっていた中で、ようやく本心をぶつけることにより、離婚という形で切れてしまうものの、互いを再度理解することができ、新たな関係が結ばれ清々しい気持ちになる。それには二人の移り変わり行く関係性を緻密に描いた増澤と高木の演技の功績が大きい。

 脚本は笹峯愛、演出は小池唯一。2022年10月10日までテアトルBONBONにて。