平野啓一郎の「ある男」。

妻夫木聡主演映画の原作だ。


読んでみようと思ったのは、

映画のCMを見て興味を持ったから。

映画は観てないんだけどね(笑)



林業に従事していた夫が、

仕事中に事故で死亡する。

親兄弟とは絶縁している、と聞いていて、

実際全く交流は無かったのだが、

流石に亡くなったことは伝えないといけない、と思い、

妻が連絡したところ···


訪ねてきた夫の兄は、

遺影の写真を見て、

これは弟ではない、と断言する。


では夫はどこの誰なのか?


そこから話は、誰なのか調べて欲しい、と、

依頼された弁護士の奮闘になる。


とはいえ、雲を掴むような話で、

調査は難航するのだが、

ちょっとした偶然から、

遂に身元を特定する事ができた。



その中で、戸籍の売買や、 

犯罪者家族の苦難が描かれる。


そう、夫の父は殺人と放火を犯し、

死刑になっていたのだ。

その過去から逃げる為に、

他人と戸籍を交換していた。


ひたすら目立たぬように、

他人と極力関わりを持たぬように生きてきた「ある男」は、

しかし、初めて人を愛し、

我が子を亡くして離婚した、

1児の母と結婚し、子供も産まれた。


恐らくは初めての幸せな日々だったろう。

たった3年9ヶ月しか続かなかったけれど。



「ある男」原誠は、

実は周囲の人に愛されていた。

弁護士が辿った過去に現れる人々に、

悪く言う人は誰一人無かった。

けれど本人は、

親からの遺伝で、自分もいつか同じ様な事をしてしまうのではないか、と、

ずっと不安を抱えていた。

そういう原誠の生き方、考え方が、

読んでいて切なかった。



犯罪を犯したのは父親であって、

当時10才だった息子には何の責任もない。

それでも素性がバレると、

そこには居られなくなる。

しかも父親が惨殺した中に、

自分の友達もいた。

二重に苦しかったと思う。



これは小説だが、

実際にそういう事ってあるだろうな、と思う。

知らず知らずに持ってしまっている偏見が、

更に人を追い詰める事も。



改めて加害者側の事も、

考えされられた一冊だった。