ニュースでも度々取り上げられているので、 
ご存知の方も多いと思うが、
この言語道断の判決に対する怒り、はともかく、
これで思い出した事件がある。

尊属殺、というのをご存知だろうか。
昭和48年に最高裁で違憲判決が出るまで存在した、
尊属(親や祖父母、叔父叔母など、系図上で自分より上位に書かれる人達を指す)に対する殺人を、
通常の殺人よりも重罪にする刑法上の規定である。

具体的に言うと、
通常の殺人の法定刑が、死刑・無期または3年以上の懲役、であるのに対し、
尊属殺は死刑もしくは無期懲役、と規定されており、格段に重い。
そして法定刑の下限が無期だと、
どれだけ減刑しても懲役3年半までしか下げられず、
3年以下にしかつけられない執行猶予がつかない。
つまり親を殺したら、どんな酷い親でも実刑は免れない、という法律だった。

で、違憲判決が出た事件である。

この事件は、実の娘を14才から強姦し続け、
子供まで産ませた父親が、
29歳になった娘が恋愛をして結婚したい、と言うと激怒して監禁し、性行為を強要したので、
思い余った娘が父親の首を腰紐で絞めて殺害した、というものであった。

この事件までにも、尊属殺規定の違憲合憲については、
度々裁判で争われてきたが、
ことごとく合憲とされてきた。
けれどこんな獣以下の鬼畜親が出てくれば、
流石に親だから、というだけの理由で重罪に処するのはおかしい、と考えたのだろう。
最高裁の大法廷で違憲判決が出て、
被告は、通常の殺人罪を適用の上、
執行猶予のついた判決を受けた。

実はこの判決は、最高裁が法律を違憲、と判断した初めての判例だった。
そしてその判決を受けて、尊属殺規定は適用停止となり、
平成7年の刑法改正で口語文に直された時に削除された。
(それまで日本の刑法は、明治時代に書かれたままの、
漢字とカタカナの、超読みにくい法律だった(笑))


で、今回の事件である。
昭和48年の事件で、被告は自分が逃げたら同居する妹までが同じ目に遭う、と考えて逃げられなかった。
今回の判事が、もし48年の事件を裁いていたら、
逃げようと思えば逃げられたのだから、
合意の上だった、
合意の上だったし、既に未成年ではないのだから、
情状酌量で減刑する必要は無い、とでも言うのだろうか。


今回の事件も48年の事件も、
そもそも子供を庇護する立場の父親が性的虐待をした時点でアウトだ。
同意の有無がどうのとか抵抗できたかどうかなどどうでもいい。
ましてや法律の要件を満たしているか、などという議論は論外。
いや、勿論、厳密に法律を適用する為には、
要件を満たしているかどうかが重要なのは分かっている。
でも父親が子供に対して性行為を強要するなど、
「人として絶対にやってはいけないこと」なのではないのか。

こんなふざけた判決を出す裁判官には、
即刻裁判官を辞めて欲しい。
そして控訴審で名古屋高裁が、
司法の正義を取り戻してくれると信じたい。