「ギミー・デンジャー」(2016年作品)感想 | 深層昭和帯

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ジム・ジャームッシュ監督によるアメリカのドキュメンタリー映画。

 

 

<あらすじ>

 

過激なライヴ・パフォーマンスにより日本では“淫力魔人”なる邦題も過去に登場した、<ゴッドファーザー・オブ・パンク>イギー・ポップ。そして、永遠のアウトサイダーとしてインディペンデント映画界に君臨する鬼才ジム・ジャームッシュ。

 

イギーが率いたバンド、ザ・ストゥージズの熱烈なファンであり続けるジャームッシュはイギーを役者として起用するなど、二人は親交を深めてきた。そしてこの度、イギー自ら「俺たちストゥージズの映画を撮ってほしい」とジャームッシュにオファー、今まで映像で語られたことのなかったその伝説のバンド、ザ・ストゥージズの軌跡を綴る、ジャームッシュにとっては20年ぶりとなるドキュメンタリー映画が完成した。

 

67年、米国ミシガン州。イギー、ロンとスコット・アシュトン兄弟、デイヴ・アレクサンダーによって、ザ・ストゥージズは結成された。様々な要素を取り入れた実験性とミニマルな音作りの融合、そしてヴォーカル、イギーの過激なステージングでそれまでのロックの概念を破壊する唯一無二のスタイルを生み出し、兄貴分であったバンドMC5と共にデトロイト・ロック・シーンを牽引した。

 

しかし74年、様々な問題をはらみバンドは自然消滅。評論家からも<下品で退廃的>と叩かれて正当な評価を得ることはなく、世に残したアルバムはわずか3枚だった。だがその後のラモーンズやダムド等のパンクロック・バンドたちはすべてストゥージズ・フリークであり、ニルヴァーナ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ホワイト・ストライプスなど後世の名だたるバンドたちが影響を公言。

 

パンク、オルタナティヴ・ロックの出発点として再評価され、2010年にはロックの殿堂入りを果たした。それほどまでにストゥージズが人々を惹きつける理由は何なのか。

 

ジャームッシュは本作において、メンバーと本当に近しい関係者にのみ取材をする方法を選んだ。イギーを軸に、当事者たちの言葉だけで語られるザ・ストゥージズの華々しくも混乱に満ちた歴史。

 

8年の歳月をかけた制作期間中、メンバーの3人(ロン・アシュトン、スコット・アシュトン、スティーヴ・マッケイ)が相次いでこの世を去ったが、彼らとその証言は映画の中に永遠に刻まれている。ジャームッシュのザ・ストゥージズへの愛が溢れる渾身のドキュメンタリー。孤高のバンド、ザ・ストゥージズ。その真実が今明らかになる。

 

<雑感>

 

ザ・ストゥージズの集大成ともいうべきインタビュー集。イギー・ポップ自ら語る「あの時代」が満載された70年代のアメリカを語る内容になっている。

 

イギー・ポップ自身は、紊乱の70年代、他の若者たちと同じように音楽活動をした「若者たちの創造への渇望」を持ったひとりでしかなかった。メンバーがそれほど上手くないため、パワーがあり、直情的な表現をするしかなかった。バンドはアメリカ人たちから、多くのロックバンドのひとつとして認識されただけだった。

 

だが、海を渡ったイギリスの若者たちの受け止め方は違っていた。レッド・ツェッペリンやザ・レインボーのように、スーパーテクニックを持ったスタジアム・バンドでなくとも、これほど心を動かす音楽を作れるのだと受け止められ、ガレージ・ロックのカリスマになっていった。

 

スリーピースやフォーピースで繰り出されるパワフルなサウンドと、等身大の自分を歌った歌詞、それだけあれば、スタジオミュージシャンの経験がなくても音楽が作れるのだと希望を与えたのだ。そのころ当のイギー・ポップは、詩の内容を洗練させていった。

 

イギー・ポップ&ザ・ストゥージズの活動期間は短かったが、60年代のアメリカで始まったガレージロックを、イギリスに持ち込むことになったのだ。そしてこれがパンク・ムーブメントとして花開く。

 

☆5.0。デヴィッド・ボウイやルー・リードとの出会いも語られている。