「悪い奴ほどよく眠る」(1960年作品)感想 | 深層昭和帯

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映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

黒澤明監督による日本の文芸映画。出演は三船敏郎、森雅之、香川京子、三橋達也。

 



<あらすじ>

土地開発公団課長補佐の古谷が飛び降り自殺した。スキャンダルに揺れる公団であったが、あえて平静をアピールするために公団副総裁岩淵の娘佳子と岩淵の秘書西幸一の結婚式を強行した。そのウエディングケーキには何者かが佐古谷の自殺を仄めかす細工がしてあった。

事情聴取のためにもうひとりの課長補佐の和田が警察の聴取を受けた。彼は黙秘を通したが解放されると自殺するために火山の火口へ足を運んだ。そこで彼は西と出会った。に死もまた会社への復讐を考えていたのだ。和田は彼の仲間になり、自殺したように見せかけて姿を消した。

公団の契約課長白井は、金庫の中に自殺者を出したビルの写真が入っているのを発見して驚き、すぐに上司に報告した。恨みがある人間の犯行だと主張するも受け入れてもらえない。白井はおかしくなって、公団の秘密をなにもかもばらしてやると言い出し、命を狙われることになった。

公団に殺されかけた白井は、西に助けられた。だが、最初に自殺した古田の息子こそが西であった。西に殺すと脅かされた白井は発狂した。西はさらに岩淵を追い詰めようとするが、本気で愛してしまっていた佳子が父に居所を知らせてしまったために彼は事故と見せかけて殺されてしまった。復讐はおp割ったが、事実を知った佳子は家を出ていった。

岩淵には電話がかかり、外遊でもしてほとぼりを覚ませと指示があった。

<雑感>

原作はアレクサンドル・デュマ・ペール「モンテ・クリスト伯」いわゆる「巌窟王」である。しかし本作を鑑賞してみればわかるが、言われてみないとそんなことはわからない。それくらい日本という舞台に落とし込んである。復讐する人物も少ない。

海外での評価が高い作品で、コッポラの「ゴッド・ファーザー」が冒頭の結婚式のシーンを参照していることは有名。コッポラ自身もそれを認めている。彼はこの作品をかなり高く評価している。

黒澤演出が際立った作品で、復讐ものなので対比されるものがなく、被疑者と復讐者の関係性に深みがないところが難点。変に原作に頼らず自身で書いた方が黒澤は面白いのかもしれない。この作品の脚本はよく出来ているが、デュマの原作からして復讐者は復讐者でしかなくて深みがないのだ。そこは致し方ないのかもしれない。

☆5.0。興行的に失敗したそうだが、こうした現代劇だと例えば日活の薄っぺらい人気俳優出演の映画の方が軽くてデート向きだと思われてしまう。時代が60年代の軽さに流れる中で、現代の舞台にすると黒澤らしさが発揮できない時代になりつつあったのだ。