「虎の尾を踏む男達」(1945年作品)感想 | 深層昭和帯

深層昭和帯

映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

黒澤明監督が勧進帳を題材に義経と弁慶の安宅の関所越えを描いた初の時代劇。主演は大河内傳次郎、藤田進、榎本健一。

 



<雑感>

勧進帳の話なのであらすじは割愛。

白紙の勧進帳を1度もミスすることなく朗々と読み上げ、いまにも身体に縄をかけようとする役人をまんまと出し抜いて関所を通る部分だけの作品。弁慶役の大河内傳次郎のしゃちほこ張った演技と、緊張感を表情で表現する榎本健一の対比が演出のポイントになっている。

平安末期の物語で江戸時代に歌舞伎で様式が成立した純和風の作品でありながら、この映画はアメリカ映画の影響を強く受けた異端な作品なのだ。エノケンこと榎本健一は、アメリカ映画に出てくるにぎやかしであると同時にサイレント時代の表情芝居で恐怖や喜びを表現する演技に徹している。

昭和45年に完成しながら日米双方の検閲を受けて1952年の公開になった不運な映画で、サイレント的なハイカラな演出が日本軍人に問題とされ、勧進帳の内容がGHQに問題とされたのだが、当の黒澤にとってはお笑い草であったろう。日本もアメリカも軍人などというのは同じことを考えるものだくらいに思わなかったに違いない。

☆4.0。エノケンの役割は「乱」のピーターに近いが、身体表現に徹したピーターと違うのが表情芝居である。大きな目と一瞬で表情を的確に変えるエノケンの演技力に感服してしまう。