「テミスの剣」(2017年作品)感想 | 深層昭和帯

深層昭和帯

映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

星護監督によるテレビドラマ。原作は中山七里のミステリ小説。映画の体裁になっているのでカテゴリーは映画に入れておく。

 



作品としては面白いんだけど、話は結構メチャクチャで、主人公の渡瀬の若いころの教育係をしていた鳴海という刑事が暴力と恫喝で冤罪を作り上げてしまう。鳴海は証拠品すら捏造して犯人でもない男を死刑に追い込んでしまった。男は刑務所で自殺してしまう。

鳴海はやがて退職し、退職金で悠々自適の生活を送ることになる。

ところが渡瀬がのちに担当した事件で犯行手口が似ているものがあり、渡瀬はその事件のことを質問してしまった。警察を陥れることができると知った犯人は、鳴海が担当した事件についても犯行を自供する。これがマスコミにバレて大騒ぎになる。警察署長以下鳴海も処分を受ける。ところが渡瀬だけが栄転になった。警察はこの事件で勇気の告発をしたとマスコミで評判になった渡瀬だけは処分できなかったのだ。

警察は渡瀬に暴行を加えてまで告発を阻止しようとした。渡瀬は立つ瀬がなくなり、妻は呆れて家を出て行った。それでも冤罪で罪のない人を自殺に追い込んだ渡瀬は警察を辞めるわけにはいかず、もう2度と間違えないと誓った。

勇敢な内部告発者として処分を免れた渡瀬は、両事件の犯人が仮釈放後に刺されたとの事件を知り、管轄外であるのに捜査に首を突っ込んでいく。

出所してすぐに殺された男の名は迫水。渡瀬は冤罪で自殺に追い込んだ男の老いた両親に会いに行った。老いた母は認知症。父親も迫水の出所日は知らない。知るはずがなかった。

ところが迫水の2回目の犯行の被害者宅には彼の仮釈放日が記された手紙が届いていた。その手紙は迫水に恨みを抱いていそうな人々に複数送付されていた。彼が事件を調べていると知って、彼の正義によって警察を首になった男が襲撃してきた。警察はいまでも渡瀬が邪魔だった。

鳴海の娘は事件記者になっていた。迫水殺しの犯人を追ううちに、20年前の事件を再捜査することになっていき、渡瀬は当日事件現場の向かいのラブホテルから車が出てきたとの情報を調べ始めた。この独断行動に警察は圧力をかけてきたが、渡瀬は意に介さず捜査を続行した。

迫水殺しの犯人は、冤罪で自殺した男の老いた父親だった。彼は他の人々同様迫水の出所日が書かれた手紙を受け取り、耕運機の刃物を使って彼を殺害した。渡瀬は彼に自首を勧めた。老人は「昔のあんただったらオレは逃げおおせたんだな?」と呟くと、納得して同意した。

迫水殺しの犯人は捕まったが、事件は終わっていなかった。渡瀬は上司の検事正をテミスの剣の前に呼び出し、彼の罪を暴いていった。

そもそも20年前の事件当日、検事正は迫水を目撃していた。しかしそのとき彼はある女優とラブホテルに行っていたのだ。当時その検事は芸能人の妻を持つ財界人の不正を担当しており、妻の肉体と引き換えに検察に不利な証言をしていたのだ。迫水はその男の顔を覚えていたので、検事正に昇格した彼を脅迫した。都合が悪いと感じた検事正は、事件被害者に迫水の出所日を教え、誰かが殺してくれることを期待したのだ。

そもそも彼が迫水を見たことを証言していれば、不幸の連鎖は起きなかった。彼は権力を利用して女を抱き、それがバレないように犯人を通報せず、冤罪と知りながら犯人をでっちあげ、無実の人間を自殺に追い込み、さらに罪のない人に殺人を犯させたのだった。

彼はその証言を鳴海の娘に売った。

という話。漫画みたいな話だけど、面白かった。暴力的で自白を強要するタイプの鳴海の下で学んでいたときの未熟な彼は冤罪を見抜けなかった。20年たって成長した渡瀬は鳴海の娘と組んでどれほど脅迫されようとも真実を暴きとおした。筋が通っている。冤罪で死んだ息子の親が大人しく自首するところも良くまとまっている。

この渡瀬という刑事は他の作品にも登場するらしい。きっと信念の人として描かれているのだろう。

映画人が撮る映画などよりよほど面白い。