「独眼竜政宗」(1959年作品)感想 | 深層昭和帯

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監督:河野寿一、主演:中村錦之助(萬屋錦之介)による1959年公開の時代劇。

 



「独眼竜政宗」は、渡辺謙主演による1987年の大河ドラマが有名で、自分もそれしか観たことはなかったが、萬屋錦之介の他、片岡千恵蔵主演のものもあるそうだ。片岡千恵蔵版の「独眼竜政宗」の監督は稲垣浩らしいので、ぜひ観たい。アマゾンプライムに追加されないかな。

この時代劇は精緻な時代考証に基づく作品ではなく、ベースになってる骨子はチャンバラ映画である。90分の中に政宗が立ち回りをするシーンが2度ほどあり、佐久間良子演ずる村娘とのロマンスも盛り込まれている。

若き日の佐久間良子は、薬師丸ひろ子によく似ている。伊達政宗と見合いをする愛姫の端正な顔立ちと、佐久間良子の丸顔が対比させてあるのだが、丸顔って日本的というか、男性にはこちらの方がウケは良いはずだ。正式なヒロインは佐久間の方だから、当時から人気があったのだろう。

薬師丸ひろ子は角川春樹に認められてスクリーンデビューした女性だが、端正な美人でもないのになぜと当時はよくからかわれていた。しかしこうして佐久間良子を見てみると、彼女が選ばれた理由がなんとなくわかる気がする。憧れや尊敬より親近感のある顔の方が売れると踏んだのだ。

物語は、元服し、伊達家60万石の跡取りとして頭角を現してきた政宗を、太閤秀吉が「腿の腫物」と称して暗殺者を差し向けて殺そうとするが、右目を負傷させただけで取り逃がすところから、片目となったことを気に病み、素行が荒れる場面を経て、秀吉の北条攻めに遅参する場面で終わる。

歴史が好きな人には、伊達政宗が片目になった理由が疱瘡でないこと、片倉小十郎が太刀で眼を抉る場面がないこと、父輝宗を政宗が撃ち殺してしまっていること、小田原攻め遅参の際の死に装束の描写がないことなど不満な点は多くあるはずだ。歴史考証は正直滅茶苦茶である。

だが、この時代の時代劇は、時代考証などより作劇の面白みが重要視されていたので、90分で伊達政宗を描くにはどうしたらいいかに重点が置かれており、劇を盛り上げるためには政宗の年齢などは適当にごまかされる。時代考証が厳しくなったのは80年代に入ってからだと思う。それまでは一部の歴史ファン以外に、時代考証は気にされていなかった。

萬屋錦之介の舞台的な演技が存分に楽しめる作品。

「宮本武蔵」でお杉ババアを演じた浪花千栄子が、政宗のばあや役をやっていて個人的にツボだった。