エンジェル税制という制度をご存じでしょうか。

これは、個人が未上場企業に投資をしたときに、一定の条件を満たすと所得税の控除など税金面で優遇を受けられる仕組みです。

投資した金額を所得から差し引けたり、将来その企業が上場して株を売却したときの利益に対する税金が軽減されたりするため、うまく活用できれば、資産形成を加速させる有力な選択肢になり得ます。

FIREを目指している人にとっては、株式や不動産といった一般的な投資だけでなく、こうした制度を利用した投資も視野に入れることで、より戦略的に資産を増やすことが可能になります。

 

 

ただし、メリットだけを見て飛びつくのは危険です。

エンジェル税制の魅力は、税負担を軽くできる点にありますが、投資先となる未上場企業は、そもそも事業が安定していない段階にあるため、倒産や計画未達によって投資額が失われるリスクが非常に高いという現実があります。

株式市場に上場する前の企業は、情報が限られており、判断材料が少ないのも特徴です。

上場後に株を売って利益を得られれば大きなリターンが見込めますが、その道のりは決して平坦ではありません。

 

実際に、SBIソーシャルレンディングという会社の事例では、投資家から多くの資金を集めたものの、一部の案件で資金の使い道が当初の説明と異なっていたことが問題になり、最終的に事業が終了する事態となりました。

融資であれば返済義務がありますが、出資の場合は企業にとって返済義務がないため、経営陣のモラルや資金管理の甘さが表面化すると、投資家の資金がずさんに扱われるリスクが高まります。

このように、制度や仕組みだけでは投資リスクを完全に防ぐことはできません。

 

ここで重要になるのが、経営者の資質です。

私は起業して30年になりますが、創業当初、資金が足りずに親にお金を借りに行ったとき、一括では貸してもらえず、毎月必要な金額を申請するように言われました。

当時は厳しいとも感じましたが、結果的にはこの方法が会社経営にとって非常に良い効果をもたらしました。

毎月必要な金額を伝えるために事業を振り返り、少しでも経営を良くしようと努力し、前月より申請額を減らすよう意識しました。

余計な支出を避け、資金を効率的に使う習慣が自然と身につき、最終的に借入額は最小限に抑えられました。

もし最初から多額の資金を手にしていたら、気持ちが緩み、無駄な支出をして経営が失敗していたかもしれません。

 

この経験からも分かるように、事業の成否は資金の多寡ではなく、経営者の考え方や姿勢によって大きく左右されます。

エンジェル投資でも同様で、最終的には「誰に投資するか」が成果を決める最大の要因です。

理念やビジョンが立派でも、実行力や誠実さが伴っていなければ企業は成長しません。

資金の使い方に対して責任感を持ち、逆境でも冷静に判断できる経営者を見極めることが、成功のカギとなります。

投資家としては、数字や資料だけでなく、経営者の行動やチームの雰囲気、リスクへの向き合い方を丁寧に観察する必要があります。

 

つまり、エンジェル税制は非常に魅力的な制度ではありますが、これはあくまで「リターンを後押しするための手段」に過ぎません。

税制優遇に目を奪われてしまうと、本質的な投資判断を誤る可能性があります。

FIREを目指す人にとって重要なのは、制度を活かしつつも、投資先の本質を見極め、リスクを正しく管理することです。

経営者の資質を見抜き、信頼できる企業に分散して長期的に投資することができれば、エンジェル税制は強力な資産形成の武器となるでしょう。