マーケティングにおいて、「目的からの逆算」は基本的な考え方としてよく紹介されています。

たとえば、「この商品を売るために、どんな人に、どんなメッセージを、どの媒体で届けるべきか」といった具合に、ゴールから逆にステップをたどっていく方法です。

マーケティングの世界では広く使われており、論理的で計画的な進め方として定着しています。

しかし、実際にこの方法だけでうまくいくケースは、決して多くありません。

 

 

その理由は、いくつかあります。

まず一つは、理想的なターゲット像や成功イメージを設定しても、現実の市場には競合がひしめいており、簡単に差別化できるとは限らないという点です。

そして、SNSやメディア運営は日々の継続が前提となりますが、自分の性格や得意・不得意を無視して「売れる形」だけを追いかけても、継続できずに途中でやめてしまう可能性が高くなります。

つまり、机の上ではうまくいきそうでも、実際にやってみると、続かない、響かない、届かないという壁にぶつかるのです。

 

そこで、出版業界の編集者的なマーケティングの考え方をお伝えしようと思います。

編集者は、最初に「目的」だけを見るのではなく、「入口」と「出口」の両方見据えて、その間にどんな“仕掛け”を作れば、人が自然に「入口」から「出口」に動いてくれるかを設計します。

ここで言う「入口」とは、ターゲットとなる人たちが今、どんなことに悩んでいて、何を求めていて、どんな情報に触れたら反応するか、という視点です。

そして「出口」とは、最終的にどんな行動を起こしてほしいのかというゴールです。

 

たとえば雑誌をつくるとき、編集者はまず広告主(スポンサー)を想定し、その企業が売りたい商品やサービスを知るところから始めます。

しかし、それをそのまま読者に押しつけても読まれません。

だから、次に考えるのは、読者となる人たちがどんなコンセプトの雑誌に興味を持ち、どんなテーマで、どんな内容なら思わず読みたくなるかという視点です。

そして、その読者の関心とスポンサーの商品が、自然につながるような特集を企画するのです。

読者はあくまで「自分が選んで読んだ情報」として記事を楽しみ、その流れの中で自然にスポンサーの商品やサービスに興味を持つ。

実は、これが編集者の仕事だったりするのです。

 

しかし、これは雑誌に限った話ではありません。

SNSであっても、ただ商品を紹介するだけでは、ユーザーは簡単に離れていきます。

かといって、悩みの解消や欲求を満たすような情報提供ばかして、価値提供に勤しんでいる人も多いですが、その情報の“裏”に商品の宣伝が見え隠れしてしまうと、読者は冷めてしまうことがあります。

なので、もっと自然に興味を持つきっかけとなる情報、つまり“入口”を丁寧に設計し、共感や発見を重ねる中で信頼を築くことができれば、ユーザーは自ら次の行動に進んでくれます。

その段階を経ることで、商品・サービスに自然と申し込むようになるという感じです。

そして、スムーズに次の行動に進んでもらうために、売り込みではなく、“メディア”という役割が生きてきます。

 

マーケティングは本来、人を動かす設計のことです。

編集者思考は、そのために非常に有効な視点となるのではないでしょうか。

論理的に目的から逆算するだけでなく、相手の立場や気持ちから考え、現実と接地した戦略を作っていくこと。

SNSやコンテンツを単なる手段として扱うのではなく、感情や行動を自然につなぐ“場”として運営していくこと。

“売る”ことではなく、“動かす”こと。

それがこれからの時代のマーケティングではないでしょうか。