元上司の訃報を知らせる葉書が自宅に届いた。
差出人は奥様だった。ご主人は2か月前に亡くなられ、享年79歳だったという。死因は書かれていなかった。
仕事から帰宅し、ポストから取り出した葉書を玄関の薄明かりの中で読んだ瞬間、私は体が固まった。
その方は、私が40歳頃に大変お世話になった上司である。
大手自動車メーカーで広報次長を務めた後、55歳で早期退職し、まったく異なる業界へ転職してきた。私より15歳年上だった。
当時の私の職場には、大企業から転職してきた管理職が何人もいた。

その中でも彼の能力は群を抜いていた。

仕事の進め方は論理的で、判断は的確。

しかもハンサムで身なりも洗練されており、「一流企業で鍛えられた人は違う」と感心したことを今でも覚えている。
定年まで数年間を無難に過ごそうとする管理職も少なくなかったが、彼は違った。
「60歳までの5年間で結果を出す」
そんな覚悟が伝わってきた。

その姿勢に応えたい一心で、私も必死に働いた。
彼と一緒に仕事をしたのは5年間だった。

広報部門でマーケティングの考え方や実践を数多く教えてもらった。

その経験は私の財産であり、64歳になった今でも第一線で働き続けられているのは、その教えがあるからだと思っている。
転職を考えたときも真っ先に相談した。

最後に背中を押してくれたのも彼だった。
定年後、彼は八ヶ岳の麓に別荘を建て、自然に囲まれた暮らしを始めた。

私は二度ほど泊まりで訪ねたことがある。
「また会いに行こう。」
そう思っていた矢先に届いた訃報だった。
この頃、お世話になった先輩方の訃報に接することが増えてきた。
それは同時に、自分自身も人生の終盤へと歩みを進めていることを実感する出来事でもある。
だからこそ、会いたい人には会い、感謝を伝えたい人には、元気なうちに「ありがとう」を伝えておきたい。
人生には順番がある。
先輩たちが旅立ち、その後を私たちが歩いていく。

その順番は変えられない。
だからこそ、「いつか」ではなく「今」のうちに、大切な人との時間を大事にしたい。
そうしなければ、きっと人生に後悔を残してしまうような気がする。