「たっだいまー」
どうやら帰ってきたみたいだ。帰って来ないというパターンは、なかったみたいだ。という事は、卵のパターンなのか・・・面倒くさい。
「ご主人様、お土産があります」
あまいが言った。そらきたよ、3匹目なのか?
「おいしそうな、お土産だよー」
たまごが言った。おいおい、同族の卵、食べちゃダメだろうと説教するパターンつきなのか?
「じゃーん、おいしそうでしょ?」「おいしいと思いますよ」
2匹が見せた物?に俺は驚愕した。そこには、50㎝程の卵ではなく・・・なんと!! 小汚い外套(がいとう)に包まれた人間らしき物?が一輪車に乗っていて、しかもピクリとも動かない。最悪のパターンじゃん。
「まさか!!仕留めたの?」
あーあ、これで俺の人生もおわたなと思いながら聞いた。
「ちがうよねー あまいちゃん、運が良かったんだよねー」
「食事をしてる熊を狙って行ったら熊が私たちに気づいて逃げたんだよねー たまごちゃん」
おいおい、冬前の熊が逃げるって・・・どれだけ貫禄がついてるねん。
「しかたなく食べ残しに何かいい物が無いかと探していたら、おいしそうな これがあったんだよねー あまいちゃん」
「しかも、まだ微(かす)かに息があるんだよねー 初めての獲物だし新鮮な方がおいしいかもしれないので仕留めずに持って帰ってきたんだよねー たまごちゃん」
熊の食べ残しを漁(あさ)るなんて説教だな・・・と言うか、こいつら俺の事もおいしそうだと思っているのか心配で聞いてみる。
「おまえら・・・俺の事も、いつか食べてやろうと思ってるの?」
「ないない」
2匹は同時に片方の前足を顔の前で横に振りながら言った。
「ん? まて、息があるの?」
「まだあるよ」
動揺していた俺は生きている事に遅れて気が付いた。
外套をめくり息がある事を確認すると
「たまご!! お湯を沸かせ、あまい! 応急処置一式を用意しろ!!」
「えーーーー」「なんでー」
「早くしろ!!」
2匹は俺の迫力に負け、意味も分からず行動する。
俺は怪我人の外套を脱がし床に移動させた。見た感じが傷だらけだったので衣服を全部脱がし傷の確認をした。背中を深く引っかかれたのが一番の傷だった。
背中の傷を飲料水で洗い流し、まだ少し出血していたので血止薬で止血して、お湯で体中を綺麗に拭き他の傷をもう一度確認した。他に出血している部分は無かったので傷薬を塗っておいた。
そうしている間に血が止まったので傷薬を塗り、薬草を張って皮ひもで固定した。
顔色が青いのは血が足りないのだろう。桑の葉・隈笹(クマササ)・ビワの葉で作った造血薬にドクダミの十薬を少し加え飲ませようとしたが意識が無い為に飲まない。
「たまごさん、これを口に含んで口移しでこの人に飲ましてあげて」
「うん・・・ゲホゲホ、苦くて口に含めなーい」
「あまい・・・」
「私は好きな男性以外とは接吻しません」
「たまごーーーーーー」
「苦くて無理です」
「あまいーーーーーー」
「自分でしてください」
潔癖症気味の俺からしたら拷問に近い・・・拷問なのだが人の命を救う為に渋々、口移しで飲ませるのだった。
さすが、この世界の薬であった。顔色が、だんだん良くなっていくのが手に取るようにわかった。あとは、この人物の運しだいだな。
怪我人の手当てが終わったので、お腹を空かせた2匹に料理を作り食事と説教を始める。
「これは人間と言って俺と同族になります。お前たちが仕留めたら俺が責任を取って最悪な場合、死刑になります。それ以上に、おいしそうに食べたら確実に死刑になります」
「しけいって、なーに?」
たまごが聞き返す。
「俺が死んじゃうと言う事だな」
「えーーーーーーーーー」「まじでーーーーー」
2匹は驚いたようだ。
「俺を死なせたいなら仕留めてこい」
「もう、しなーい」「やりません」
2匹は大きく首を横に振る。
「他に、人はいなかったの?」
「いなかったよねー あまいちゃん」
「いませんでした」
2匹がウトウトしてきたので説教を終らせ、風呂に行かせた。
怪我人の看病をしてると
「いつもの」「やさしくしてね」
2匹に頼まれて毛並みを整えると
「おやすみー」「おやすみなさい」
「寝小便するなよ、おやすみ」
2匹は布団に向かい、俺は怪我人の看病をするのであった。
つづく