ゴールを目前にして、またまたリンデマン氏を襲う危機。
そして、アウトリガーはどうあるべきなのか?
これについては次回、考察しまする。
アローン アット シー (33) 164~168 ページ by ハンス・リンデマン
翻訳 カイチョー
12月17日
天気は変らなかった。海は荒れ、嵐が猛った。魚や鳥がまた私の周りに集まって来た。私は疲れ果てていた。夜通し体が震えてとまらなかった。でもやっとのことで少し暖かくなり太陽が顔を出した。正午少し前に、波が私の側で口笛のようにヒューと鳴った。それは子供の頃に祖父が聞かせてくれた船乗りの伝説を思い出させた。ヒューと鳴る波がもたらす厄災の伝説は、難破した船乗りの物語が起源だ。彼はヒューと鳴る波が通り過ぎた後に沈没した船の唯一の生存者だった。船乗りは私が聞いたのと同様の音を聞いたのだ。それは私にとってもよくない兆しなのだろうか?私は何を失うというのだ?私の命だけだ。
生死はもはやどうでもよかった。水中では生き物が活発に動いていた。2匹のシイラだ。小さかったが食用にはなった。私は水中銃で撃ち、デッキに引き上げ、丸ナイフで叩いて殺し、そっくりむさぼった。胃の調子はイマイチだったが、そんなことに構ってはいられなかった。
空気がない・・・空気がまったくない・・・。何ということだ!また沈没してしまったのだ!私はまたボートにしがみついたが、薄い海藻の膜と取り残しのフジツボに覆われてつかまりにくかった。私はボートを起こそうとして押してみた。するとゴム製のバウに小さな膨らみを感じた。それはアウトリガーから伸びているロープで、わざとボートの下の方に残しておいたものだった。ロープを使うとリベリア号を起こすのは簡単だった。すぐにボートに乗り込むことができた。私は肘でスプレーカバーを押し上げてアカ水を汲み出した。どうしてまたそんなことが起こってしまったのだろう?水中銃が何処かに行ってしまった。シイラを撃った後にスプレーカバーを閉め忘れたのだ。まずいことになった。私は水の汲み出しを続けた。島はもう近いはずだ。水中銃がなくても何とかなるだろう。
私は2度ともアウトリガー側に引っくり返ったことははっきりしていた。ポリネシア人が風上側にアウトリガーを置くのはやはり正しいのだろうか?しかしどちらの時もショックは感じなかった。それは甘美な死に誘うものであった。私は意識を保ち、呼吸を保った。今はアカ汲みをしなければならない。そして船体のゴムが盛り上がっているのに気づいた。何か尖ったもので膨らんでいるようだった。私は木のフレームが持ちこたえられるように、ボートの中にある程度の水を残すことにした。
私はまだ水の中に座っていた。寒くはなかった。何も感じなかった。ミズンセールを取り付ける必要があった。それはスピードを増してくれるばかりか、荒れた波で3度目の沈没が起きる危険性を減らしてくれるだろう。ナイフでマストの場所を削り、パドルマストをそこに突き刺した。少しがたついていたが固定できた。それからセールを揚げてやっと私は安らぎ、目的地でクリスマスを祝う心の準備をした。
12月19日
嵐は止まなかった。私は抜け殻で、考える力もなく、「西へ向え、諦めるな、きっとできる!」という言葉にただ従っていた。少しウトウトした。理由もなく時々幸せな気分になった。私は無責任な幸せに逃避できる何処かの場所にいた。そこはエゴや意識とも無関係だった。
私は前方マストの近くの赤いゴム製バッグに入っている11個のミルク缶を探さねばならなかった。たった11個だ!1日2個は飲んでいたような気がする。島は近いはずだ、と自分に言い聞かせた。しかしこの缶詰は非常用で飲むわけにはいかない。いつまた沈没するかわからないし、いつラダーがトラブルを起こすかも知れない。このミルクはとっておかねばならないのだ。私はボトルの水を飲むことになるだろう。水はあと数日はもちそうだ。私は1日1杯の水で10日間以上持ちこたえた漂流者を知っていた。
突然の衝撃で目が覚めた。舵が効かなくなっていた。後ろを向き、ラダーのケーブルを引っ張った。恐れていた通り、ラダーがむき出しでぶら下がっていた。パドルを右舷のケーブルに沿ってスターンに伸ばし、ラダーを水から引き上げた。今やシーアンカーが緊急に必要だった。ラダーの心棒が壊れていた。こんな天気くらいでと思ったが、新しい心棒を何とかしなければならなかった。スペアパーツは全部流されていた。その時閃いた。ミズンセールの形状を保つのに頂点部で使用していた針金がある。それこそまさに必要としていたものだ。パドルを駆使して何とかコースを保ちながら、ワイヤーを伸ばして心棒の形にし、服を着たまま水に入ってラダーブレードを固定した。服はずぶ濡れになり、完全に乾くのに数日かかった。時々午後の太陽が同情して私のあちこちを乾かしてくれた。夜、いつものように水の中に座っていた。尻の出来物は奇跡的にあまり痛くはならなかった。もう水に漬かるのになれてしまったのだろうか。
度重なる危険によって研ぎ澄まされた心の眼は、前方にはっきりとフィリップスバーグの赤い屋根と緑ヤシを見ることができた。
12月21日
私は最後のロープを海用バッグに結んでシーアンカーを作った。しかし、私はそれを使わなかったし、使う必要がないことを望んだ。それは私を後退させるだけだった。ある切迫した恐ろしい感覚が私を捉えた。私は慰めの言葉で自分の神経を鎮めねばならなかった。「キミはできる。西へ向え!」私はエンドレスに繰り返した。
心がぼんやり彷徨っている時は楽しく陽気だったが、覚醒している時は緊張と心配に苛まれた。自分自身が究極の静けさ以外何もない場所にワープし、すべてを忘れてしまうことが何度かあった。そこでは私の存在はぼやけ、嵐の音はもはや聞こえなかった。
軍艦鳥がリベリア号の上を旋回した。それはもうすぐ着くことを告げていた。もう島からはそんなに離れてはいない。
私の強さはこの折り畳みボートにあった。破壊しようと躍起になって押し寄せる波に、海を嘲るかのようにボートは抗っていた。海はリベリア号の反骨精神を感じ取り、それ故全力を挙げて私を捉えようと巨大な波を繰り出してきた。
「ミズンセールが揚がっている限り、私を餌食にすることはできないぞ!」と波に向って叫んだ。
昨日、ミルク缶を1個飲んだ。今日、もう1個を飲んでしまった。私は島の存在を示すような雲がないか空を眺めた。何もない!でも明日があるさ。
夜通し寒かった。歯がカチカチ鳴り、腕が震え、こむら返りのような痙攣に襲われた。「私はやり遂げる!」と感覚を研ぎ澄ますために祈りながら繰り返した。命懸けで私は祈った。それは意識を集中させてくれた。そして祈るにつれ、カラフルな家と大きな緑のヤシがあるセント・マーチンへ到着することに気持ちが向っていった。
どうしてミルクを飲まないの?まだ9個も残ってるじゃないか。でもまたアクシデントに見舞われたらどうするんだ?その瞬間何かが走った。消耗し切った一人の男に過ぎない私は缶を1個つかみ取り、ナイフで缶の端を突き刺しミルクを飲んだ。しかし、飲み干すやいなや自分自身の弱さを恥じるしかなかった。
(33回目完)