16.勝海舟「自分で修養するほか…」 | 明日通信

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勝海舟「氷川清話」


【自分で修養するほか方法はない】

■ 人はたれでも、自省自修の工夫が大切だ。全体、政治の善悪は、みんな人にあるので、けっして法にあるのではない。それから人物が出なければ、世の中はとうてい治まらない。しかし人物はかってにこしらえようといってもそれはいけない。世間では、よく人材養成などといっているが、神武天皇以来、はたしてたれが英雄をこしらえあげたか。たれが豪傑を作り出したか。

 人材というものが、そうかってに製造せられるものなら造作はないが、世の中のことは、そうはいかない。人物になるとならないのとは、ひっきょう自己の修養いかんにあるのだ。けっして他人の世話によるものではない。


■ 試みに野菜を植えてみなさい。それは肥(こやし)をすれば、一尺ぐらいずつ揃って生長する。しかしながら、それ以上に生長させることは、いくら肥をしたってだめだ。つまり野菜は、野菜だけしか生長することができないのさ。文部省がやる仕事も、たいてい効能は知れている。

 ちかごろ、ある若いものがやってきて、「私は財産もないし、門地も卑しいから、自分独りで豪傑のつもりになっております」というから、おれは感心して、「そのつもりで十年もやれ」といって励ましておいたよ。