近頃、ドロバチが畑に良いと考えるその裏付けとなる素晴らしい書籍と出会いました。岩田久二雄著『ドロバチのアオムシがり』(文研出版)という児童書です。なんと1973年に出版された本なので、半世紀前、私が8歳の時の本です。

 

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フタオビドロバチの生態を詳しく紹介してあるのですが、驚くことが四つ書かれてありました。

 

 

 一つは、7月末までに母蜂が産んだ卵は、一ヶ月後の8月末に羽化するのだそうです。私は、ミツバチやアシナガバチ、スズメバチなどの家族を作る蜂以外は、羽化は翌年と思っていましたから驚きました。なにより、アシナガバチが狩りをしなくなる9月にタイムリーに現れてくれるのです。もしかしたら、あえてその季節を狙って産卵するように進化してきたのかもしれません。

 

ということは、野山にしかけた蜂パイプの一部は、翌年まで待たなくても8月末に畑に持ってくれば、この秋に活躍してもらえるということです。なんて素敵な連携プレイでしょう。

 

  

 

次に驚いたのは、アオムシを狩る数についてです。1匹の母蜂は、7月におよそ30個の卵を産むそうです。1匹につきおよそ10匹のアオムシを狩りますから、母蜂は一生で300匹のアオムシを狩ることになります。これだけでも凄いことですが、驚くのはここからです。

 

 

8月末に羽化した30匹の内、狩りをするメスバチはおよそ10匹だそうです。しかし、10匹とはいえ、それぞれ100匹を狩るので3000匹を狩ることになるのです。母蜂の分も含めると3300匹。これは、フタモンアシナガバチが、一夏に一群れでアオムシ2000匹を狩ることよりはるかに上回っています。私はこれまで完全にドロバチ類の働きを見くびっていました。

 

 


さらに、驚いたことが紹介されていました。私が試し始めたドロバチの農園での活用を、50年前にすでに青森のりんご農家さんがやっていたのです。

 

竹嶋儀助さんという方です。1.8ヘクタールのりんご畑でミカドドロバチを繁殖させてハマキムシの害から守っていました。竹嶋さんは、畑の中の小屋の軒先に、前の年に産卵してあった竹筒230本とたくさんの新しい竹筒を設置したそうです。すると、9月末には726本の竹筒に産卵したのだそうです。気になるりんご栽培への効果ですが、なんと被害は何もしていないりんご畑の10分の1で済んだとのこと。


ミカドドロバチのことをすぐにネットで確認しましたが、うちの蜂パイプでは見つけたことがありません。このあたりは山手なのでもっと里地に棲んでいるのかもしれません。あるいは、色みが似ているフタオビドロバチと見間違えていたのかもしれません。野山に仕掛けてある蜂パイプで今年出会えることを期待しています。

  

           ミカドドロバチ ※写真は平群庵さんより
 

そして、最後のページに書かれてあったのは農薬公害のことです。もともと害虫だけを殺すために農薬を使ったが、有益な虫、鳥、魚も住めないほど自然を汚し、ついに人間まで住めないようになっていくとして、蜂を使った生物的防除を利用しようと呼びかけてまとめとしてあるのです。

 

50年前にすでに農薬の使用を危惧なさっていたのです。その予言は、50年後の今日、本当のことになってきているように思えてなりません。私もまったく同意しています。

 

著者の故岩田久二雄氏を調べると、文人的、詩人的、芸術家才能にも富みナチュラリストでもあり「日本のファーブル」と呼ばれた昆虫研究の草分けの方でした。他の蜂についてもそうですが、先人の皆さんが残したこのような研究成果を、この時代に活かしていくことが未来に生きることに繋がることだとつくづく感じています。