お久しぶりです!

 

今日は航空ドラマがどれだけリアルなのか、勝手に解説したいと思います!

 

今回取り上げるのは、航空ドラマの王道、「GOOD LUCK!!」 (日本・2003)。

平均視聴率は30%以上、全面協力したANAの株価も上昇し、パイロットを志望する人が増えるなどの社会的現象を巻き起こしたドラマです。自分は当時ドラマなどは見ていなかったので、実際にこのドラマを見たのはパイロットになってからでした。もし放送当時に見ていたら、自分の人生にどんな影響を与えたんだろうと考えてしまいます。

 

全体的の感想として、ANAの協力のおかげか操縦に関する描写はとてもリアルです。霧の中での成田へのアプローチ中のパイロット間のコールなどは実際のコクピットそのものです!それでもB767の機体なのにB747のコクピットなど、航空ファンにとっては「おいっ!」と思ってしまうシーンもありますが、映像のストックにも限りがあると思いますしそこはご愛嬌ということで...

それでは他に気になった部分も詳しく見ていきましょう!

 

 

パイロットとタイプレーティング

このドラマに出てくるパイロットたちは、B767やB747をひっかえとっかえ飛ばしていますが、パイロットは基本的に1つの機体タイプしか操縦しません。パイロットは機種ごとの訓練をし審査に合格することによって、機体のタイプレーティングを取得します。タイプレーティング自体はいくつでも持てるのですが、日頃から操縦するタイプは1つに限られて来ます。これは、複数の機体タイプの操縦がこんがらがってしまわないようにするための安全対策で、たとえすでにタイプレーティングをもっている別の機体タイプへ移る時も、機種別の訓練が必要になってきます。なので、B767を操縦しているパイロットが、次のフライトでB747を操縦することはないです。

例外的にB757とB767など、非常に似ている機体を運行する会社では、両タイプの訓練を受けて、両タイプとも飛ばしているパイロットもいます。うちの会社でも、B777とB787の両タイプを同時に飛ばせるように、運航マニュアルを変えようとしているという噂も聞いたこともありますが、訓練や国からの許可など色々とハードルもあり、本当の話かは分かりません。ちなみに、同じ機体でも派生型が違うと別のタイプレーティングになってしまうこともあります(世代別のB737など)。

 

パイロットと監査

「GOOD LUCK!!」では、非常に厳しい監査官とパイロットのドラマも描かれていましたが、これはあまり現実的ではないと思います。ハードランディングを見られて、すぐに監査室に呼び出されることもありません。というのも、航空業界は「人間はミスをする」ことを前提に考え、「どうやってミスの数を減らすのか」という事を重視します。そこから生み出される運航マニュアルに従うことによって、航空業界は安全な運航を目指します。運航マニュアルに従って行動していれば安全に運航できるというのが航空会社のスタンスで、それに従っている範囲で起こった事故、インシデントであれば、会社は従業員を責めるのではなく、ミスを防げなかったマニュアルを改善することを最優先します。なので、多くの会社が「どんなミスでも報告すれば許してもらえる」というルールと義務的な報告システムを取り入れて、どんなに小さい事でも従業員自らから進んで報告し、そのミスが再発しないように運航マニュアルを改善することに注力しています。

確かに一昔前はミスした人間を責め、責任を擦り付けていた時もあったようですが、それは現代の業界では時代遅れな発想だと思われます。というのも、ミスをして正直に報告してきた従業員を次々と罰していては、報告すること自体を思いとどまらせてしまい、安全につなげるチャンスを逃すことになるからです。

これは、なにも航空業界に限ったことではなく、他の業界にも当てはまることかもしれませんね。なんでもかんでもミスを責めてばかりでなく、そこから学び、組織としてより良くなろうとする姿勢が大事ですよね。

ハードランディングのケースで現実的な流れとしては:ハードランディング発生→センサーによって感知され自動的に、または整備士から会社に報告(機種にもよります)→パイロットも自ら何が起き、どうして起き、どうしたら回避/改善できるか報告→会社の安全委員会が危険度、再発する可能性などの観点から調査→よっぽどのことでない限りパイロットに連絡が行くことはなし。逆にここでパイロットからの報告がないと、安全委員会から電話がかかってきて「〇月〇日のフライトで変わったことはなかったですか?」などと質問されるようです。特に最近の飛行機では、この時点で安全委員会は飛行機のデータから何が起きたかほとんど知っているので、知ったかぶりをしてもダメですもっと重大なケースで報告義務を怠った場合は、雇用にも関わるほどの重大な違反として扱われる場合もあります。

そしてドラマにも何回か出てきた監査フライト。パイロットは新しい機種へ移行した時、そして基本的に1年に一回の監査フライトに合格する必要があります。監査フライトの様子は国、そして社風にもよっても違ってくると思いますが、ドラマのようにパイロットを長時間緊張させるような監査フライトは現実的ではありません。というのも、人間は緊張しすぎるとミスをしやすくなるもの。いつでも安全が優先される航空業界には向いていません。緊張が伴う緊急時などの訓練はシミュレーターで行い、監査フライトでは運航マニュアルに従って普段通りのフライトができるかがチェックされます。自分の経験からだと監査官に厳しい人は少なく、質問もいくつかされますが、難しいテストというよりも基本的な部分に関する質問の方が多いです。

 

 

機長に権限はあるけど偉くはない!

皆さんは、なぜコクピットに2人のパイロットがいると思いますか?たしかに飛行機の複雑さと設計的に、2人で操縦した方が良いというのはありますが、やろうと思えばどんなに大型の飛行機でも一人で飛ばせます。そしてシミュレーターの訓練では、実際に一人のパイロットが失神した場合に、もう一人だけで操縦する訓練も行われます。

それでは、航空会社はなぜ更にお金と時間を使ってまでパイロットを2人コクピットに乗せるのでしょうか?それは先ほども書いたように、この業界が「人間はミスを犯す」という事を前提に成り立っているのからです。

パイロットの仕事は、2人・またはそれ以上のパイロットがお互いをチェックし合い、助け合うことから成り立っており、一人のパイロットがミスを犯した場合でも、もう一人が間違いを指摘することによって、安全な運航に繋がるようにしています。お互いを助け合うという点で、ミスが事故に繋がらないように監視・指摘し合うほかに、お互いの意見を自由に話し合い、いつでも最善の選択肢を選ぶことも複数のパイロットで運航するメリットです。過去に起きた事故の多くが、一人のパイロット単独の致命的な決断によって、多くの命が奪われてしまうような事故につながっています。そしてその多くで、機長の独断を他のパイロットが止められなかったケースが多いのです。

一昔前までは、「経験を積んでいる機長の判断は絶対」であり、他のパイロットは機長に従うだけの人員であることがまかり通っていました。しかし現代のコクピットでは、新人のパイロットを含め、すべてのパイロットの判断と発言が尊重され、議論された中で最善の選択肢が選ばれます。それは、機長という立場の人間でさえ「自分も間違いを犯す」ことを受け入れ、「他人の指摘が正しいかもしれない」という気持ちでフライトに臨んでいるからですそして機長には、新人パイロットにも発言しやすい環境を作り出し、述べられた意見を聞き入れる責任があり、新人パイロットには機長に対しても自分の意見をしっかり伝える責任があります。実際のフライトでは、ここにフライトアテンダント、地上のディスパッチャーや整備、管制官なども加わり、機長は多くの意見を聞き入れて他のパイロットと共に決断していきます。

GOOD LUCK!!では、確かに監査フライトで機長への指摘があるシーンもありましたが、まだまだ機長がコクピットでは神のように描かれていて、副操縦士である主人公が納得しないままフライトが進んでいる場面も多々ありました。ここで問題なのは機長の判断に問題があったのではなく、パイロット同士が同じ意思を共有しないままフライトが進んでいる点です。パイロットの間で意識に違いがあると、一瞬の判断をしなければいけない際に二人の考えに違いが出てきて、その結果判断に遅れが生じたり、最悪の場合はミスを誘発、事故につながりかねない事態になります。

また、パイロットのフライトアテンダントへの態度も、実際は部下のように扱うのではなく、客室の責任者として尊重して接するのが普通です。何事についても最終的な決定権は機長にあるのですが、客室で起こることに関してはフライトアテンダントの方たちの方がエキスパートなので、客室のことに関してはCAさん達の意見を取り入れるのが普通です。

 

 

パイロットとフライトアテンダント(CA)

ドラマの中で、パイロットはCAさんにちやほやされる存在で、多くのパイロットもCAのことを部下として接するような場面が多く見られたように思えます。また、パイロットとCAの恋愛も描かれていました。これは皆さんも気になる所だと思うのですが、実際はどうなのかというのは国柄や会社によっても変わってくるのかなと思います。というのも、日本やアジア系の航空会社でのCAの平均年齢は非常に若く、30代になる頃には他の仕事へ移っていくことが多いようですが、自分が働いている国と会社では、CAは長期間働く仕事として捉えられていて、定年までCAをする人も非常に多くいます。リージョナルで働いていた時も、若手パイロットが多く、CAさんが一番年上というクルーもよくありました。そして特に国際線はベテランのCAさん達が好んで担当するので、全体的な年齢層も高く既婚者も多いです。逆に離着陸も多くハードなスケジュールが多い国内線は、若い新人のCAさんが担当することも多く、小型機に乗務する若いパイロットにとっては同年代のCAさん達と仕事をする機会も増えますし、ちらほらパイロットとCAが付き合ったなどという話も聞きます。

ここ数年で立ち上がったリージョナルだったりすると、パイロットもCAさんも新人が多いので、カップルに発展するケースも多いように見えます。やはり、同年代で仕事をする中で仲良くなり、ステイ中にクルーで食事をする機会もあるので、恋愛に発展しやすい環境ではあるのかなとも思います。

 

 

積乱雲シーン

積乱雲に突っ込みそうです」はパイロットとして絶対に言いたくない言葉です。というのも積乱雲のエネルギーはかなりのもので、パイロットは一番最初に小型機で訓練を始めたころから積乱雲を避けるように教えられます。それは大型のジェット機でも同じで、飛行前に積乱雲が発生しそうな空域をしっかり確認し、飛行中は気象レーダーやディスパッチャー、管制官からの情報をもとに積乱雲をしっかり避けます。なのでドラマのように、目の前の避けられないような距離に、突然積乱雲が現れることはないです。

また、機長が副操縦士に操縦を任せるシーンもありましたが、基本的に1フライト中は一人が操縦係(Pilot Flying:PF)、もうひとりが監視係(Pilot Monitoring:PM)を担当します。それを1フライトごと交互に担当するのが一般的で、最初にどちらが操縦係をやるかの最終決定は機長にあることが多いですが、みんな気軽に「どっちやりたい?」と聞いたり、コイントスや日付の偶数・奇数で決める人もいたりします。なので、トイレのため席を立つ時などを除いてフライトの途中でPFとPMが代わる事は基本的にないです。ちなみにPFとPMがそれぞれ担当する手順もあり、特に突然の非常事態なども考えた時、誰が操縦を担当しているかを全員がいつもしっかり認識していることは非常に重要です。

 

スピードを示す所から下に矢印が出ているシーンがありましたが、これはスピードがどう変化しているかを可視化したもので、このままの状態(パワー/機体姿勢)で10秒後にスピードがどれくらいかを示しています。

(GOOD LUCK!! 第7話、TBS)

 

ちなみに240ノット辺りの下から伸びている黄色い線は、Minimum Maneuvering Speed と言って、失速が近づいていることを示します。矢印がその速度を下回っているという事は、パワーを上げるなり機首を下げるなりしてスピードを上げようとしないと、十数秒後には失速の危険があることを示していますそれに気づいた機長は、チラチラと副操縦士を見て「何かしないのかな」という感じですが、これは結構リアルです。

ここで機長はスロットルレバーに手をかけますが、PMである機長がPFの仕事であるスロットルレバーを操縦しようとするのは本当はしてはいけない事です。ここで機長がするべきことは、スピードが落ちている事実をPFに伝えることで操縦を促し、もし操縦を譲ってほしいのであれば「I have control」と言って代わるべきでした

その後も、ふたりともどうするか話し合いもせず、行動を宣言→実行を繰り返します。何をするか相手に伝えるのはいいのですが、相手が了解しないで行動に移すのは問題ですその時点でパイロット間にはズレが生じているからです

その後、機長は旋回するのにオートパイロットを外します。しかし実は、巡行中など高度が高い時にオートパイロットを解除するのは危険な行為なのです。というのも高度が高く、空気が薄くなるほど、先ほど出てきた失速するスピードも高くなります。そして、音速近くで飛行する飛行機は、速く飛びすぎると翼の上を通る空気が音速を超えてしまい、それにより生じた衝撃波によって空気の流れが乱れ揚力を失ってしまいます。高度が上がるにつれ、この2つのスピードの制約は徐々に厳しくなり、安全に運航できるスピードの許容範囲も狭まってきます。この小さな速度の許容範囲はパイロット達に「Coffin Corner (棺桶の角)」と呼ばれていて、少しでも速度が変わり、どちらかのスピードの許容範囲を超えてしまうと非常に危険な状態になります。

下の図で、上の赤い部分が最高速度、下が失速速度になります。この2つの速度の範囲内で操縦しなくてはいけません。

(資料:Perfect Flight,https://www.perfectedflight.com/coffin-corner/)

 

このシーン場合、乱気流の中でもオートパイロットの修正が追い付いているようなので、コンピューターによって非常に繊細な操縦ができる、オートパイロットに操縦を任せるのが安全な方法です。このシーンで機長は旋回をするためにオートパイロットを解除しましたが、旋回ならオートパイロットの方が繊細で正確にできるので、解除する必要性はないと思います。逆にマニュアルで操縦して、少しでも無駄な機首上げ下げをして速度にいらない変化を与えてしまうと非常に危険です。

ここで機長は操縦桿も握って操縦しているので、副操縦士も誰がPFなのか困惑している場面が出てきますね。これじゃ監査で落とされても仕方ないです。

積乱雲を抜けて副操縦士に「気を付けないとね」なんて言っていますが、自分もレーダーなどの監視を怠った一人なので、他人を注意できる立場じゃないですよね。

ちなみに帰りのフライトの時に自分の間違いについて話していますが、まったっくその通りだと思いました。その辺はドラマでもしっかりと正論が述べられていて、よくできていると感動しました!

 

 

パイロットとお酒

最近いろいろと聞くようになったパイロットと飲酒。安全を守る責任があるパイロットとして、飲酒操縦はパイロット生命に関わる重大な違反です。ドラマの中では、ユニフォームのままでバーなどでお酒を飲むシーンがありましたが、会社にとってもマイナスなイメージがついてしまうので、たとえフライト前でなくてもユニフォームのままでお酒を飲むのはご法度です。帰宅途中にコンビニに寄ってお酒を買って帰るのも、ユニフォームの上にコートを着るなど注意します!

 

 

いかがでしたか?

4つぐらいのドラマについて書こうと思ったら、GOOD LUCK!!だけでどんどん細かい所まで書いてしまって長くなってしまいました。なのでシリーズ化して、次は映画のハッピーフライトについて書こうと思っています!