会場内に最後のDona nobis pacem.が響き渡る。
そして、時が止まったかのような長い沈黙・・・・
胸の前で固く組んでいた手をそっとほどいて、
その沈黙をやぶったのは、他ならぬ、マエストロでした。
ブラァボ、とオーケストラ、合唱団のメンバーに
小さな声でそっと囁きました。
79歳のマエストロ、音楽人生最後の瞬間です。
2000年にマエストロの指導する合唱団の一団員となり、
それから9年間、合唱団では、
本当に沢山の方と交流を持つことが出来て幸せでした。
個人的には、この9年間、私は音楽家としての環境に
ものすごく大きな変化がありました。
混声合唱をしてみたい、という軽い気持ちがきっかけで
入団しましたが、ヘンデルやバッハの大曲に挑み、
リコーダー作品を吹いているだけでは、
到底はかり知れぬスケールの大きさを知りました。
何度か挫折を繰り返しながらも、細々と続けているうちに、
学生という身分だったのが、気がつけばいつも音楽と共に、
という生活に変わっていましたが、
毎週の練習に参加していると、
最初の練習に行った時と何も変わっていないような
気がしてしまうのはなぜでしょう。
本番の都合がつかなくて悩みながらも3ヶ月前に退団しましたが、
その分、マエストロの最後のステージを冷静に聴くことが出来、
しっかりと胸に刻みました。
今まで歩まれてきた道のりを確認するかのような、
丁寧な、丁寧な演奏でした。
芸大のオラトリオの授業でも、専門生ではない私を快く受け入れて下さり、
私は毎週、歌声を聞きながら贅沢な時間を過ごしました。
その上、発表会ではリコーダーを吹く機会を下さり、
バッハの106番を共演させて頂き、本当に貴重な経験をさせて頂きました。
今、先生の事で思い出すのは、
ぶ厚くて暖かい手、深く刻み込まれたおでこのシワ、
怒った時の真っ赤な顔、冗談を言った時の少年のような顔・・などです。
先生のおっしゃった事、音楽が本当に身体とこころで理解出来るようになるのは
いつの事でしょう・・。
昨晩から今日にかけて、ずいぶんと後ろを振り返り、
感傷的になりました。
明日からは、また前を見て頑張ります。