学生の頃か、社会人になり始めの頃だったか、はっきりしないが、桃太郎侍の映画(大映)を見た記憶がある。

 

今回、原作を聞いた。痛快時代小説だ。面白い。

 

四国丸亀の10万石岩木藩の「お家騒動」の話である。

 

江戸住まいの若殿と双子の弟になる桃太郎侍は浅草化け物長屋に住む浪人が主人公である。

 

隅田川の向島堤で襲われたうつくしく気品のあるお姫様、岩木江藩戸の江戸家老の娘「由利」が

、助けに入った桃太郎侍を見て、ハットする。若殿に瓜二つなのである。

 

娘の話を聞いた父親の家老が、江戸の若殿が、丸亀の城代家老一派に毒を飲まされ重体で、身代わりを桃太郎侍に頼む。

 

城代家老の娘の子を跡継ぎに目論むが、その計画を実行する直侍「半九郎は剣術に長け、頭もいい。

 

密かに身代わりになり、丸亀の岩木藩へ向かう桃太郎侍と、それを阻止しょうとする半九朗との知恵比べが中々面白い。

 

また桃太郎侍を慕う二人の女性はいずれも際立って美しく、家老の娘の方は武家育ちの気品と若さ故の恥じらいもあり、一方の踊り師匠「小鈴」は年増の艶っぽさがあり、いずれの女性も読者を惹きつけてくれる。(小鈴も桃太郎侍に助けられたことがある。また半九朗にも好かれ、複雑な立場にいる。)

 


映画では、美しいお姫様の由利より、踊り師匠の小鈴を役の木暮実千代がなぜか記憶に残っている。

 

昭和52年の作品では長谷川一夫が(半九朗役は第河内伝次郎)、昭和62年では市川雷蔵が桃太郎侍と若殿の二役を演じている。

作者の山手喜一郎は明治32年、栃木県の生まれで、出版社の編集の仕事をしていた。その時代に書いた時代小説がサンデー毎日で入選する。そのご出版社を止め、作家になる。桃太郎侍は昭和14年から15年にかけ新聞に連載されたものである。戦争が始まるくらい時代に、明るい、楽しい大衆小説を世に送り出した。

写真 安藤広重の「江戸名所百景」の中の一つでアる。隅田川の浅草、吉原から、対岸の向島堤を描いたもの。遠くの山は筑波山である。向島の長命寺の桜餅は名物だった。小説では、江戸家老のお姫様が駕籠で、敬語の侍と腰元を従え、乳母の病気平癒のため長命寺詣でをしたのである。この時、この向島堤で桃太郎侍と出会うのである。