太宰治の「きりぎりす」の冒頭は 「お別れいたします。あなたは嘘をついています。・・・」と、なんとも 穏やかでない。
この年になると、小説の見方も変わって来た。小説の舞台が、かって 自分が住んでいた所であると、がぜん興味が湧いて、親しみを感じる。
この小説の主人公である 私 は24才。売れない絵描きと結婚し、淀橋のアパートで、清貧な暮らをしている。
淀橋とは戦前にあった懐かしいい地名。私の子供心では新宿駅東口周辺を淀橋と思っていた。戦後直ぐ、淀橋区、四谷区、牛込区が一緒になって現在の新宿区になった。
下は淀橋区の地図の一部。新宿駅の周囲、副都心の辺り一帯から山手線の新大久保駅の辺り、そして中央線の大久保駅から新中野駅の間が含まれる。
大久保駅から東中野駅にかけては 柏木 と云う町でいい住宅地だった。淀橋のアパートはこの辺りだったであろう。
太宰の他の作品「千代女」には少女のつづり方を雑誌に投稿をすすめる 彼女の柏木の伯父さん と云う人物が登場する。柏木と云う町名も今はない。なんとも味気ない 北新宿と云う町名に変わってしまった。
売れなかった絵描きの夫が2年あまりの内に。絵が売れ出し、出世していく。そしてアパートから三鷹町の大きな家に引っ越す。次第に夫の態度が変わり、周りがちやほやしだす。そんな環境に耐えられなくなり、主人公の女は別れる決断をするのだ。
淀橋の名は、あのヨドバシカメラに残る。
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