NHKの上方落語という番組に「鰍沢」が目に入った。

 

 

 

 

 

私の生家から5、6分のところにあった新宿末広亭に、子供の頃から父親に連れられ、よく行ったものです。父親は桂三木助が好きでした。私は圓生の人情噺が好きでした。なにしろ、落語の種類が多く、その語りの旨さに、魅力を感じていました。

 

今回、久し振り聴いた鰍沢は、かって東京で聴いていた圓生の鰍沢と違うのです。びっくりしました。そこで、また図書館に出かけ、圓生の鰍沢を確認してみました。

 

鰍沢はざっとこんな内容だ。

 

日蓮宗の総本山身延山にある久遠寺を参詣する男が、途中で吹雪になり、鰍沢への道に迷い、死に物狂いで山の中の草ぶき屋根の荒れた家を見つけ、一晩の宿を願う。そこの女は土地のものでない、なにか いわくありげだ。女は暖かい卵酒を勧める。ところが素性が男に知られて、胴巻の大金を狙い殺そうと毒を盛ったのだ。男はそれと知ると ほうほうの手で逃げ出すが、女は火縄銃を持って、吹雪の中を追いかける。男は富士川に落ちる急流の鰍沢に繋がれた筏に飛び乗る。筏は岩にぶつかり、縄が切れ丸太がバラバラっと外れる。

女は岩に足をかけ男に狙いを定めた。男はひたすら南無妙法蓮華経を唱える。玉は男の髷をかすめ、うしろの岩にカチーンと当たる。男は「あーッ、感極まった声、この大難を逃れたも ご利益(りやく)・・・のっている一本になった丸太の筏を指さし、お材木(ザイモク:お題目オダイモク)で助かった」

 

という落ちで終わる。

 

蛇足ですが、

鰍沢は甲州、今の山梨県の釜無川と笛吹川が合流し、富士川になる辺りで、大変な流れの厳しいところで、そこがこの話の舞台である。その激流の模様を北斎の富岳三十六景で、知ることが出来る。

北斎の富岳三十六景甲州石班沢(鰍沢のこと)

 

本題に戻り、図書館で集英社文庫「圓生古典落語」の鰍沢の項で登場人物に記述を調べると

 

 

旅人:新助 江戸の人 日蓮宗の信徒

女  :お熊、 元 浅草の吉原の熊造丸屋の花魁 月の兎(戸)

亭主:伝三郎、元 日本橋本町の生薬屋の解雇人(しくじり) 

 

とある。一方今回の笑福亭たまの話では

 

旅人:和歌山の人 日蓮宗の信徒

女  : 元 大阪花街の新町芸伎  月の戸姉さん

亭主: 元 大阪 道修町のくすり問屋のしくじりもの

 

即ち、鰍沢は本来江戸の話で、これを上方落語では、関西の客に合った編集にしているのである。江戸っ子には、浅草 吉原が色街では一番。関西では、吉原でなく、新町なのでしょう。また旅人を和歌山に人とし、色街の座敷をダシキと云わせ和歌山の人は「ザジズデド」が「ダヂヅデド」になると、笑いをとり、女が「なんでわてが大阪の人とわかりやした?」、旅人は「こんな達者な大阪弁は使われへん!」 とここでも客席を笑わせている。

 

くすりの町を、江戸のように本町(ほんまち) と云うより、船場というか、道修町と云った方がはるかに通じるからでしょう。

 

本来、鰍沢は一時間くらい時間をかけ、圓生は客を飽きさせず、聴かせる話だが、今回のNHKの上方落語の会では、笑福亭たま さんが20分という限られた時間にうまく編集していたと云うべきでしょう。

 

芦屋に来て、2年近くになりました。上方にもっとなれなくてはいけないかと思った次第です。