前回からの続きです。

 

嫌がる私を半ば強引にお寺に連れて行こうとする兄と両親。

今、思えば、十代の頃より親に心配ばかりかけ、ウダツが上がらない私の事を案じた家族が事前に住職に相談し、折をみて私を寺に連れて来る様に指示されていたんだと思います。

兄の家から、お寺まで車で約2時間。

私はブルーな気持ちのまま車中終始無言でした。

対照的に、兄の表情はいつになく高揚し、ワクワク感さえも伝わってきたのを覚えています。

「きっと、今日は何かが起こるに違いない」と。

 

お寺に着くと、初老の男性が笑顔で迎え入れてくれました。

何かの作業中だった様で、穴のあいたジャージに埃まみれでした。

てっきり、御近所のお手伝いさんか誰かと思いきや、何とその人が住職だったのです。

私のイメージしていた、謂わゆる「お坊様」とは似ても似つかない。

それでも法衣を身に付ければそれなりなんだろうと想像してみました。

後に、わかった事ですが、お寺での御住職は朝から晩まで常にジャージ姿。何処そこのお偉方が来ても同様でした。

 

当時の私にとって、たわいの無い話が続きました。

初対面という事もあり、かなり緊張していたのだと思います。

住職が何を話されたのか全く覚えていません。

いったいどれだけ時間が経ったのか。

住職は、私達家族全員を御本尊不動明王の前に座る様に指示、私と対面して座られ「合掌して目を閉じていなさい」と。

住職が、明らかに私では無い誰かに向かって語りかけている声がし、私の意識がだんだんと遠くなっていきました。

次第に頬の筋肉が痙攣した様に小刻みに震えだし鼻水が止まらなくなりました。

「今日限り、お父さんとお母さんを赦してあげなさい」という住職の言語が聞こえたのと同時に、私は号泣してしまったのです。